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電脳コラム 11

ミニキーボードで高速入力を狙え

1998年5月


『世捨て人の庵』

 ワープロ専用機・OASYS 30-AX301を6年前に購入、当時実質的には富士通の最高級機種の一つであった。が、その割にキータッチに高級感がないというのが当時からの印象だった。キーを押すとフニャとした感じで、豆腐のように腰がなく、押したという感覚がない。いわゆるクリック感のまったくないキーボードである。

 普通、キーをゆっくり押し下げていくと、途中から急に指の抵抗がなくなってストンと(あるいはカチッと)キーが落ち込むのが普通だ。これがクリック感である。OASYSのキーボードにはこれがない。押し始めから底につくまで指にかかる抵抗がほぼ一定である。キーが戻る時も同じだ。それにキーを高速で乱打するとカチャカチャと安っぽい音がして、イマイチ好きになれなかったものだ。

 わがパソコン・VAIO(タワー型)のキーボードは、キータッチに関して多くの点でOASYSとは対照的だった。押下の感触は腰があってクリック感がある。バネではなくゴムを使っているせいで音が抑制され、カチャカチャではなくもっと落ち着いた音がする。打鍵の感触になんとなく高級感がある。

 しかしパソコンでの打鍵速度が向上し始めた最近、VAIOのキーボードに不満が出てきた。ある程度以上の速度で打鍵しようとすると、かなり指に力が必要で疲れやすい。速く打とうとするほどゴムの粘っこさが邪魔をして“速打ち”しにくいのである。

 その点、OASYSのキーボードは“速打ち”用に実によくできていたことに最近気づいた。一見キーのスプリングが柔らかすぎる感じだが、プロの文筆家や秘書が目にもとまらぬ速さで打つにはちょうどよい固さだったのである。

 クリック感のあるキーボードは、打鍵速度の速くない人が、あまり多くない文章を入力するにはいいが、文章入力のプロには向かないということがわかった。


 キーを高速に打つ場合、キーピッチは非常に重要な要素である。

 慣れないうちはキーピッチが大きい方が打ちやすい。携帯ワープロ・OASYS Pocket3 (キーピッチ約15ミリ)を使い始めた時はかなり打鍵速度が落ちた。ところが、使い慣れていくうちに親分の30-AX301より速く打っていることに気付いた。

 そもそもキー入力とは、「ホームポジションと目的のキーとの間の指の絶えざる往復運動」である。往復運動である以上、往復距離は短いほど物理的には速く打てることになる。つまりキーピッチの小さいミニキーボードほど「速い」という理屈になる。キー1個当たりの時間差はわずかでも、何百何千個のキーを叩くと、トータルでその差はばかにならない。

 さらに細かく言うと、指が目的のキーにたどり着いてからキーを押し下げるという3次元方向の運動が加わる。もちろんキーを押し込む距離(ストローク)は浅いほど速く打てることになる。ストロークが0、すなわち“タッチパネル”が理想である。もっともタッチパネルだとホームポジションに指を置いただけで入力されてしまい、うっかり触れないことになってしまうので、ある程度のキーストロークは必要だが。

 ミニキーボードは、最初のうちは打ちまちがいが多く、標準キーボードよりかえって遅くなるのが普通だ。が、これは慣れの問題だ。指先の神経は繊細にできているので必ず慣れる。慣れてしまえばこっちのもの、打鍵ミスさえ減れば必ず標準キーボードより速くなる。

 高速入力をめざして、一月ほど前にミニキーボードを導入した。もちろんメインで使用するためだ。選択条件は、小型、キーピッチが小さい、テンキーなし、キータッチが軽い。その他に、親指シフトで打つためにSpaceキーなどの長さが適当であるという条件がつくが、これについては別のコラムで詳しく述べた。

 ボクが選んだのはMITSUMIというメーカーのミニキーボード(KEK-EA9AU)。MADE IN MALAYSIAとある。定価は不明、秋葉原で6,980円で購入。(富士通のPlicheというパソコンのキーボードは、これの姉妹品ではないかと思われる)。

ミニキーボード(標準キーボードとの比較)。親指シフトしやすいよう親指部分にゴムを貼った。
ミニキーボードと標準キーボード(16KB)

 作りはしっかりしているが、デザインはぱっとせず、表面の仕上げもイマイチで、高級感はない。キーはフル装備の109タイプで、不要なテンキーがついているが、横幅わずか36センチと小形。面積比でVAIOの標準サイズのキーボードの60%しかない。

 キーピッチは実測15.3mmと小さく、小型のノートパソコン並み、これはOASYS Pocket3と大差ない。ストロークも標準キーボードに比べれば遥かに浅い。浅すぎては打ちにくいが、深すぎては時間の無駄になってしまう。これぐらいが適当だろう。

 使い始めるといいことずくめで大満足である。狙い通り、標準キーボードでは不可能な速度で軽快に打鍵することができる。ディスプレイに流れ出る文字のスピードがかなり違うのである。キーがとても軽いので、長時間打っても指が疲れない。一度この速度と軽快感を覚えたら、もう標準キーボードのキーの重さ、鈍さには耐えられない。

 ミニキーボードに慣れた指でたまに標準キーボードを使うと、キーが10センチ角ぐらいの大きさに感じるので驚く。あまりのキーの重さに呆然とする。いままでこんなに重いものを押していたのか、と。標準サイズのキーボードの打鍵が繊細な指にとっていかに重労働かということに気づく。しかも平面的にも立体的にも随分大きな指の動きをしていたことがわかる。

 ミニキーボードのその他のメリットとしては、小型なので机上のスペースを取らない、ファンクションキーなどかなり遠くのキーまで指が届く。

 キーが小さいので、使いこなすには少々慣れが必要だ。標準キーボードの時のように手を躍らせて打つと打鍵ミスの原因になりやすい。できるだけ両手を定位置に固定させたまま、指だけ動かすのがコツだ。手首をアームレストなどに押し付けて固定するとよいだろう。

 高速キー入力をめざしたミニキーボード導入は大成功だった。おかげでボクのキー入力の速度は新しい次元に入ったと言える。

 標準キーボードは重労働ですぞ!


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