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電脳コラム 1

かな入力とローマ字入力、どっちが得?

1998年10月


『世捨て人の庵』

 日本語入力方式は「ローマ字入力」がいいか「JISかな入力」がいいか。ボクはどちらもだめだと思っているので、この問題を深く追求するつもりはないが、この2種類の入力方式の欠点を比較してみよう。

 パソコンの日本語入力方式の現状はどうなっているのかを知るために、書店でタンピング習得の本を片っ端から十数冊眺めてみたことがある。その結果、初心者向けの本ほどローマ字入力を勧めている場合が多いことがわかった。

 「ローマ字変換は26文字のキーだけ覚えればいいから、かな入力より遥かに楽、よって入力方式はこれで決まり!」と、実に安直に結論を下している本もあるので驚く。

 下手をするとキーボードと一生付き合うことになるかもしれないので、覚えやすいという理由だけで選ぶのは軽率である。もっと長い目でメリットを考えるべきだろう。

 ローマ字変換入力は、改めて説明の必要もないが、かなをローマ字読みで入力するもので、ローマ字のキー配列をそのまま使えるのがメリット。ローマ字はホームポジションを含む3列のキーに収まっているので、極めて打ちやすく打鍵ミスが少ない。26文字のキーを覚えればいいので習得が容易であるという。

 ローマ字入力の欠点。言わずもがなのことだが、かなを1個入力するのに2個のキーを打つ必要があること。

 と書くと、「いや、2倍にはならない」とすぐ反論が返ってきそうだ。確かに母音はキー1個ですむし、「きゃ」などの拗音(ようおん)は「kya」と3打鍵ですむから、打鍵数は確かにかな入力の2倍まではいかない。が、1.2倍程度でもないことは明らかだ。では一体何倍になるのか。

 この点が議論の的になりそうなので、これをきっちり定量的に解明しておきたい。ボクが書いたあるコラム1本(91行×34字)について、ローマ字入力で打った場合とJISかな入力で打った場合で打鍵数を数えて比較してみることにした。日本で初めての、ということは世界で初めての実験データである(ウソ)。

 カウントの条件を明確にしておこう。

・ ローマ字入力は打鍵数がなるべく少なくなるような打ち方をする
たとえば「ち」は「chi」ではなく「ti」と2回で打つ。
・ Enterキー、変換キー、英数キーなどの押下も1回に数える
すなわち、なるべくローマ字入力に有利なカウントをしようというわけだ。
・ JISかな入力は濁音や半濁音を2回と数える。

 どの文字もユーザ登録辞書から呼び出すことなく、すべての読みを入力するものとする。漢字変換は句読点ごとの連文節変換入力とし、すべて1回で正しく変換できたものとする。

 打鍵数をカウントすると簡単に書いたが、これは“野鳥の会”よりもエライ作業である。実際に全部打って数えるヒマはないので、計算できる部分は計算に頼った。

 実験結果を示す。打鍵数はJISかな入力が3,897回、ローマ字入力が5,655回で、ローマ字入力が1.45倍になることがわかった。意外に差が少ないと言える。JISかな入力では濁音や半濁音がキー2個分になるせいもある。ちなみに親指シフトでは3,462回で、ローマ字入力は親指の1.63倍となる。

 文章の執筆には、内容を考えたり推敲したりする時間も必要だから、打鍵数だけで単純な比較はできないが、少なくとも打鍵速度が同じならキーを打っている時間は1.45倍かかることになる。JISかな入力なら1時間で打鍵できる文章が、ローマ字変換だと1時間27分かかる計算になる。ただし、これは“読み”の入力に要する時間であり、漢字変換の修正などの手間は考えていない。

 JISかな入力の“Shift+文字キー”は単独キーの押下よりずっと時間がかかる。また、ローマ字入力では3段に配列されたキーですむのでJISかな入力より打ちやすい。従って単純に打鍵数だけで打鍵時間を比較することはできないと思われる。

 それにしても、日本人が日本語を入力するのになぜローマ字で打たなきゃならんのか、この辺りに日本語入力が抱える問題点がある。ローマ字をかなに変換し、かなを漢字に変換する、つまり二重に変換しているわけだ。

 ボクは親指シフト派だが、昔はローマ字入力だった。両方の方式を使った経験から言うと、1打鍵ごとに1文字ずつポンポン出てくる快感を一度味わったらもうローマ字入力には戻れないという感じだ。


 次にJISかな入力について。これは数字キーを含む4段にかな文字を割り当てたものである。どこにメリットがあるかというと、ほとんどメリットがない。1キーでかな1個が入力できる点はローマ字入力に比べればメリットか。また、かなの配列が「50音配列」に比べればいくらか賢い点がメリットか。50音配列とは、昔一部のワープロ専用機のキーボードに採用されていたもので、かなキーが50音順に並んでいた!

JISかなキー配列図(6KB)
「JISかな」配列図

 JIS配列は、基本的には「か行」「さ行」など同じ子音のグループが近くにかたまって配置されている(図参照)。なぜこんなことをするかというと、キーボードに不慣れな初心者にはキー配列が覚えやすいからだが、一度配列を覚えてしまったあかつきにはまったくメリットのない配列ということになる。日本工業規格がこんな不合理な配列を考えたとは、来たるタイピング文化を軽視していたとしか言いようがない。キー配列を決めるのに「配列の覚えやすさ」という呪縛から逃れられなかったのである。

 JISかなでは4列のキーではまだ足りなくて、一部のかなは“Shift+文字キー”という操作が必要になる。Shiftキーを押すために小指を多用するので、小指が疲れる(らしい)。親指でシフトする親指シフトに対し、“小指シフト”だとも言える。

 最上段の数字キーもかな入力に使うため、打鍵ミスが増え、ブラインドタッチがしにくいし、どうしても手の平が躍ってしまう(はずだ)。

 上級者がタイプする場合、ローマ字入力よりJISかな入力の方が速いという。

 親指シフト派のボクとしては、JISかな入力もローマ字入力もどちらもご苦労さんという感じだ。世の中には親指シフトという高速で楽な入力方式があるのになぁ。親指シフトは他の2つに比較して圧倒的に優れた点が多いのだが、これについては別のコラムでじっくり語らせてもらおう。


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