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電脳コラム 8

誰も教えない単語登録法

1998年12月


『世捨て人の庵』

 日本語を効率よく入力するには、打鍵速度を上げるのはもちろんだが、打鍵数を減らす工夫も必要である。頻繁に入力する長い単語を登録しておき、短い読みで呼び出す。効果的な単語登録法を考えてみたい。

「単語/用例の登録」ダイアログ(10KB)

 まず、一度入力した単語を素早く登録するコツ。単語登録は「単語/用例の登録」ダイアログ(IMEのツールバーをクリックして出す)で行うのはご存知の通り。ワープロソフトやテキストエディタなどの画面で登録したい単語を範囲選択して反転表示させてから「単語/用例の登録」ダイアログを開くと、登録すべき単語が語句欄に自動的に入るので便利(アプリによってはそうならない場合もある)。キーボード派なら「Ctrl+F10」を押してからF1を押してダイアログを開くのが早い(テンプレートがMS-IME97の場合)。

 登録すべき単語にどんな読みをつければいいだろうか。望ましい読みの条件は、

(1)短いこと。3文字以内なら申し分ない。
(2)瞬時に思い出せて、決して忘れないこと。
(3)他のユーザ登録単語の読みと重ならないこと。
(4)システム辞書に登録された一般の単語の読みと重ならないこと。

 ボクが従来から実践してきた読みのつけ方は、登録単語の頭2音をとり、その先頭に「ゅ」をつけるというものである。たとえば、「インターネット」ならば「ゅいん」、「テキストエディタ」ならば「ゅてき」といった具合である。

 「ゅ」をつける理由は次の2つである。

(a)先頭が「ゅ」で始まる単語が他にない。
 一般の単語が変換候補に混じって出てくることは絶対にない。

(b)親指シフト入力では「ゅ」はホームポジション上にあって押しやすい。
 親指シフト配列では使用頻度の高い“かな”の多くはホームポジション上にある。例外なのがこの「ゅ」で、頻度が低いくせにホームポジションの一等地にある(Fキーと左親指シフトキーを同時に押す)。

 押しやすくて他の単語には使わない。読みの先頭につけるにはうってつけの“かな”である。ワープロ専用機を使っていた頃から登録単語の読みに「ゅ」をつけることにしている。

 読みをつける場合、このように一定の規則を作っておく必要がある。規則に従っておけば読みを記憶する必要がなく、即座に思い浮かべることができる。規則に従わず場当たり的につけていると、今はよくてもやがて(遅くとも数年以内に)混乱をきたすことになる。読みの字数を統一しなかったり、単語のどの音を取るかを決めなかったりすると読みを忘れる原因になる。たとえば「インターネット」を「いん」と登録し、「Internet Explorer」を「えくす」と登録すると、「インターネット・エクスプローラ」の読みが「いん」か「いんた」か、「えく」か「えくす」かわからなくなるのは時間の問題である。


 ワープロ専用機時代を含めたこの数年間、「ゅ+2字」という規則で単語登録してきたが、このたびこの方針を一部変更することにした。「ゅ+2字」の規則が破綻してきたからである。

 破綻の理由は、日本語の執筆歴が長くなるにつれ、当然の結果として登録単語数が増加、「ゅ+2字」では変換候補が多すぎて誤変換が増えてきたのである。

 大半の読みは変換候補が1つか2つしかないので問題はないのだが、中にはかなりの数の候補を出すものがある。たとえば「ゅいん」で呼び出すと、Internet Explorer、IE3.0、IE4.0、interQ、インクリメンタルサーチ、Insert、インストール…などなど、30個ほどの候補が挙がってくる。ここまで増えると選択するのに手間取る。

 人名の変換候補が増えたのも悩みのタネだ。名字というのは特定の漢字が多用されるため、読みが重なることが多いのである。

 ボクはこう見えてもテレビ人間で(意外や意外?)、テレビ番組をダビングして保存するのが趣味の一つ。ダビングデータ整理の必要からタレントや有名人の名前をたくさん単語登録してある。

 「松田聖子」と入力するために「ゅまつ」と打って変換すると、松本明子、松本伊代、松村邦洋、松浪健四郎、松尾貴史、松居直美、松本典子、松方弘樹、松任谷由実、松たか子、松島エリース、松本人志、松本恵…などが出てきてたいへん往生する。

 登録単語数はすごい勢いで増えており、今後も増えこそすれ減ることはない。このままでは変換効率が落ちるばかりだ。そこで大英断。今まで登録してきた「ゅ+2字」の読みを1字増やし、「ゅ+3字」にすることにした。

 たとえば「インターネット」ならば「ゅいんた」。「テキストエディタ」ならば、テキストの「てき」とエディタの「え」をとって「ゅてきえ」とする。つまり、読みの最後の音は次の区切りの先頭の音をとることにする。人名も同様で、「松田聖子」なら「ゅまつせ」、「松本伊代」なら「ゅまつい」となる。

 読みが1字長くなるということは、“打鍵効率”の点から見ればマイナスだが、“変換効率”の点から見ればメリットが大きい。読みを変換する場合、1度か2度の変換で目的の単語が出ないと、3度目で変換リストが出てくる。変換リストから選ぶという操作はもっとも時間を食う。変換候補が減れば変換リストをめったに見なくてすむし、誤変換も減る。読みが1字ぐらい長くなっても、一発で意図した単語が出る方がはるかに能率が上がるはずだ。

 かくして方針は決まった。読みを「ゅ+2字」から「ゅ+3字」へ大変更だ。目標はこれだ。

松田聖子を一発変換で出した〜い!」(←『電波少年』風に)

 新しい規則「ゅ+3字」に従い、登録してあった単語の読みを一気に書き換えた。と簡単に言うが、単語の数は百や二百じゃないので、これは大仕事である。

 読みの変更は「単語/用例の登録」ダイアログからやっていたら日が暮れてしまうので、ユーザ登録辞書を一旦テキスト文書に落してからテキストエディタで変更し、テキスト文書を辞書にもどすという方法をとった。

 読みの規則を変更した結果どうなったか。読みを1字増やすだけでかなり読みの重複が避けられることがわかった。たいていの単語はほぼ1発で変換でき、変換リストが出現する頻度も激減した。前述の“松ファミリー”の芸能人も「ゅ+3字」にするとほとんど読みが重ならないことがわかるだろう。

 おかげで「ゅまつせ」と入れて変換すると一発で「松田聖子」が出てくるようになった。大成功である。松田聖子だけではない。神田正輝だって神田うのに邪魔されることなく一発で出る。「松田聖子が神田うのと離婚」などと誤変換せずにすむわけだ。

 単語登録でどういう読みをつけるか、これはパソコンの使いこなしにあたる。パソコンやソフトの“使い方”はマニュアルや雑誌に書いてあるが、“使いこなし”までは書いていない。パソコンで大切なのは使いこなしである。こういう部分をなおざりにして高価なパソコンを買っても能力を十分に引き出すことはできない。

 以上、親指シフト入力に合った単語登録法を紹介した。ローマ字入力やJISかな入力にもそれぞれ最適な読みのつけ方があるはずだから、入力方式に応じた読みを工夫してほしい。


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