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電脳コラム 9

標準キーボードで親指シフトしよう

1998年10月


『世捨て人の庵』

 パソコンに付属する109キーボードを改造せずに、ソフトの工夫だけで親指シフト入力ができないだろうかとずっと思案していた。

 親指シフト入力を実現するオンラインソフトというのがいくつかある。しかし、普通のキーボードでは写真1のように親指の位置がキーと合わないので、たとえば右親指シフトキーを変換キーに割り当てると、右親指の動きが不自然になって具合が悪いのである。左親指シフトキーを無変換キーに割り当てると、今度は左親指の動きが不自然になる。普通のキーボードは親指シフト用には作られていないのだから当然である。なんとか親指の位置を合わせる方法はないだろうか。

 パソコン購入から5ヵ月後、ひょんなことからその解決策が見つかった。

 ある日のこと、キーボードのホームポジションに指を置き、「この変換キーがもう少し長ければいいんだがなぁ」などと思案しているうちに、ふと右手をキー1個分右にずらしてみると、右親指がぴったり変換キーの真上に来るではないか!

右手をキー1個右にずらすと親指が変換キーの上に来る(5KB)

 右手だけ1個分ずらしたキー配置を覚え直すか。いや、その必要はない。キーカスタマイズ用のソフトを使って、右手で打つキーを全部右に1個ずつずらせばいいんだと気づいた。方針は固まった。

 愛機の付属キーボードは改造して使えなくなったので、新しくミニキーボードを買った。早速、当時使っていたキーカスタマイズ用のソフト『VKEYMAPD』で、右手で打つ英数字キーをすべて1個ずつ右にずらした。このソフトはsystem.iniファイルにキー入れ換え情報を直接書き込んで使うという原始的なもので、キーの入れ換えが32個しか定義できないという制限があった。右手の文字キーを全部入れ換えると、それ以外のキー変更があまりできなくなるのが難点だった(現在は『Keylay for Windows95』を使用)。

 右手で打つキーはすべてキートップを引き抜き、1個ずつずらしてはめ込んだ。(尚、数字の“6”キーは、一般に右手で打つことになっているが、これは合理的ではない。左手人差し指の方が近いので、ボクは左手キーとして扱っている)。

右手のキーを1個ずつ右にずらした配列(6KB)

 109キーボードでは、右手ホームポジションの右側に[、]、\といった使用頻度の少ないキーが縦に並んでいる。こんな一等地にどうでもいいキーを置いておくのはもったいない、もっと使用頻度の高いキーを割り当てるべきだと常々思っていた(これらのキーは、JISかな配列でかな文字が割り当ててあるが、親指シフトでは文字キーとしては使わない)。右手の文字キーをそっくり1個ずつ右にずらすことで、これらのキーをつぶすことができた(必要な記号は単語登録して呼び出せばよい)。おかげで右手小指がEnterキーに届くようになった。これは大きな副産物である。「Enterキーに小指が届かない」とお嘆きの貴兄もこれで満足であろう。

 また、隅っこに追いやられていたBackspaceキーを右手小指とEnterキーの間の一等地に割り当てた。これは親指シフトでいう“後退キー”の代わりである。さらにDeleteキーをEnterキーの下に移した。これらのキーが右手小指で簡単に操作できるようになったのはとてもありがたい。

 さて、右手の文字キーをそっくりキー1個分右にずらすと、両手の間に縦に1列要らないキーが残る。ここにはよく使うキーを割り当てておくとよい。ボクの場合は、Tabキー、矢印キーといったものを割り当てた。「Tabキーがなんでよく使うんだ?」という人はマウス派であろう。キーボード操作では、Tabキーは記入欄をスキップしたりウィンドウを切り換えたりと、頻繁に使うのである。矢印キーがホームポジションから操作できるようになったことで、カット&ペーストの操作が随分速くなった。

 必要なキーを移動したら、次に親指シフト用のオンラインソフトを導入する。右親指シフトを変換キーに、左親指シフトをSpaceキーに割り当てること(このように設定できないソフトは、ここで紹介する方法では使えない)。

 現在、親指シフトソフトとして『親指シフト「通」』、キーレイアウトソフトとして『Keylay for Windows95』(ともにシェアウエア)を常駐させて使っている。キーのレイアウトを大幅に変更した上に、さらにJIS配列キーボードを親指シフト動作させているのだから大変な荒療治であるが、幸運にもこの2つのソフトはケンカすることもなくうまく動作している。

 右手のホームポジションを1個ずらすことで違和感はないのかと懸念するかもしれない。が、まったく違和感は感じないというのが正直な感想だ。両手の間隔が少し広がるので、かえって手首に無理がない。また、両手の間隔がキー1個分異なるだけだから、自分のパソコンは親指シフトで、会社のパソコンはローマ字入力で、という使い分けも問題なくできる。

 この方式の欠点は、すべてのJIS配列キーボードがこの方法で使えるわけではないことだ。どういうキーボードが使え、どういうのが使えないのか。下の図をよく参照してほしい。この方法で使えるキーボード、使えないキーボード(5KB)右手をホームポジションからキー1個分右にずらした時に、右親指が自然に変換キーの上に来るキーボードは使える。つまりSpaceキーが短いタイプである。目安としては、JキーとKキーの間の線をまっすぐ下ろした時、線が変換キーの中心辺りにくるキーボードは使えると思われる。これに対し、Spaceキーが長いタイプのキーボードは使えない場合が多い。

 これから購入するパソコンやキーボードが親指シフトで使えるかどうかを判断するには、実際に店頭で自分の手を置いて試してみてほしい。

 ここで紹介した方法を使えば、多くの109キーボードで親指シフト入力が可能になる。一度も親指シフトで入力したことがないという読者も、この機会に親指シフトを試してその優秀性を確認してほしいものだ。自分のキーボードを改造せずに親指シフト入力ができるとなれば、もはやJISかな入力やローマ字入力にこだわり続けるメリットはないはずだ。

 この方法を親指シフターのみならず、すべてのパソコンユーザーにお薦めする。


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