前のコラムへ 表紙へ もくじへ 次のコラムへ

電脳コラム 12

実用性のないモバイルブーム

1998年5月


『世捨て人の庵』

 モバイルがブームである。電子手帳なんてもう古い、PDAだ、ミニノートパソコンだ、WindowsCEだと、種類も選択肢も豊富になった。が、実用的な意味で本当に使いこなしている人がいるのか大いに疑問である。

 多くの人がスケジュール管理、To-Doリスト、備忘録、カレンダーといった用途にモバイルを使っている、あるいは使おうとしている。そういう目的なら流行りの携帯情報端末はとても不便。多くの点で手書きの手帳の方が圧倒的に便利である。

 ボクは外出先でスケジュールや覚え書きを記録するのに普通の手帳を使っている。用紙の差し替えのきくバインダー式の手帳で、ごくオーソドックスな安物。これに付箋を組み合わせて使う。典型的なアナログツールだが、古くて原始的な道具とバカにするなかれ。手帳のメリットを思いつく限り挙げてみる。

(1) アクセスタイムが短い
スケジュール、メモ、TO-DOリストなどは必要なときにすぐに取り出して書き留められ、参照できることが一番大切。手帳ならポケットから取り出して目的のページを開いて書き出すまでに5秒とかからない。インデックス台紙や付箋をうまく利用すればもっと短縮できる。
この点でポケットに入らないPDAや携帯パソコンはいちいちカバンから取り出して使うことになるから論外。さらに立ち上げてから目的の機能を選択するのにも時間がかかる。
(2) 小型・軽量
現在、ザウルスポケットは14.6cm×8.3cm×1.5cm、195gと小型軽量だが、軽さや薄さの点でまだまだ手帳が上。しかもラフな扱いに耐え、壊れにくい。
(3) データ入力の操作性がよい
PDAの手書き入力の認識率が向上したというが、鉛筆による手書きに勝る手書き入力はない。変換操作不要、殴り書きでも認識率100%。カーソル移動不要。
さらに矢印を使って別の項目と関連付けるとか図や絵を書き込む、あるいはカラーボールペンで色分けしたり、マーカーで強調表示することも容易。
1ページで見られるデータ数が多い(一覧性が高い)、ページめくり(スクロール)も容易。
(4) 立ったまま使える
混んだ電車内でも使用可能。手書き入力できるPDAなら立ったまま使えるが、キーボード入力は立ったままというわけにいかない。両手が空いているだけではだめで、キーボード本体を置く場所(膝の上など)が必要、つまり座っていなければ無理。小さいPDAなら立ったまま両手の親指で入力するという手もあるが、入力速度が遅すぎる。手書きより遅いキーボード入力なんて意味がないと考える。
(5) 電池が不要
モバイルは電池代がかかるのはもちろんのこと、予備電池の携帯、電池の購入、交換、充電などに要する手間もバカにならない。
(6) 用紙の差し替えが簡単
手帳は必要に応じて用紙を足したり、不要になったページはまとめて外して保存できる。外部媒体への保存である。
(7) 安い
値段はPDAが3万円〜十数万円、携帯パソコンは実売で15万円を下らない。手帳は数百円〜千数百円。圧倒的な差である。

 手書きの手帳は、モバイル機器でいまだ解決できない多くの問題点をクリアしている。

 一方、モバイル機器のメリットは何か。データの加筆修正が容易(手帳では横線で消しても削除データが残ってしまう)。データの検索・並べ替えができる。デスクトップパソコンでデータが再利用できること。しかし、たかがスケジュールや備忘録をデスクトップパソコンで管理する必要があるだろうか。わずか2、3行変更するたびにいちいちデータ交換して一元管理、これは大きな手間である。

 予定やTo-Doリストやアイデアをメモするには手書きの手帳、あるいは付箋を使ったノートで管理する、これが一番効率がよい。鉛筆と手帳があればすむことをわざわざ何万円もする不便な道具を使ってやる意味がわからない。実用性なしと断言する。もちろんそれを趣味として楽しんでやるのなら結構だが。


 ノートパソコン、WindowsCE、キーボード入力可能なモバイル機器のメリットは長文入力にある。

 去年、携帯ワープロを購入。富士通のOASYS Pocket3。細切れの空き時間にホームページ用のコラムを書くためである。PDA全盛のこの時代に携帯ワープロを買うのはかなりの変人であろう。

富士通 Pocket3(14KB)

 ノートパソコンは安くても実売18万円ぐらいする。とてもそんなには出せない。WindowsCEも出ていたが、キーが小さすぎてブラインドタッチできない。それに親指シフターのボクとしてはどうしても親指シフトにこだわった。親指シフトキーのついたモバイル機器はないかと探したら、2つだけあった。一つは富士通のINTERTop。パソコンとワープロの中間的なPDAである。もう一つがPocket3だった。世はノートパソコンとPDAの時代。携帯ワープロはすでに斜陽化、店頭にはPocket3の現品処分品が並んでいたくらいだ。

 外出先でインターネットや電子メールもやるというならINTERTopを取るが、ひたすら文章を入力するだけの限定用途なら携帯ワープロでも十分用は足りる。INTERTopは実売10万8千円、Pocket3は実売6万4千円。重さはINTERTopが750g、Pocket3は490g。これで決まり、Pocket3を選んだ。

 当時常用していたデスクトップ型ワープロ専用機(OASYS 30-AX301)とデータ交換するためにメモリカードも購入。30-AX301はフロッピィを介してパソコンとデータ交換ができる。よってPocket3の文章を30-AX301経由でパソコンに取り込むことが可能になった。

 Pocket3は本体22.5×11.4×2.4センチ。キーピッチは15mmでブラインドタッチ可能。スケジュールやカレンダーなどの機能も一通り入っているが、そんなものは使わない。ちなみにスケジュール画面を立ち上げるのに10秒もかかる。これでは使い物にならない。

 流行りのミニノートやWindowsCEではなく、あえて携帯ワープロ(Pocket3)を選ぶメリットはあるか。

(1) フリーズが少なく安定している
せっかく入力した文章がフリーズでフイになる…、長文入力では避けたい問題だ。この点、ワープロ専用機は安定している。まったくフリーズしないわけではないが、ボクの経験では前記30-AX301を6年間フルに使用、フリーズしたのは確か3回ぐらいしかない。
(2) 小型・軽量
現在もっとも小さいノートパソコンで重さ800g台。NECモバイルギアで500g台。Pocket3は490g。ブラインドタッチできるものとしては最軽量クラスだ。
(3) 日本語入力が快適でスピーディ
ワープロ専用機は日本語入力専用に設計、キーボードの使いやすさに一日の長がある。
(4) 電源オンですぐに立ち上がる
レジューム機能を持つノートパソコンは何秒ぐらいで立ち上がるのだろうか。20秒? 5秒? もっと早い? Pocket3は電源オンから2.5秒で文章入力可能になる(電源オンで編集文書を表示するモードの場合)。これにはかなうまい。すぐに立ち上がることは外出先での使用には大切なことだが、これを気にする人はなぜか少ない。
(5) 電池が長持ちする
 単三乾電池2個で10時間持つ。
(6) 安い
実売価格でノートパソコンの3分の1程度。

 出先で長文を執筆・推敲する、旅先で旅行記をまとめるといった用途に携帯ワープロはぴったり。ただ、そういう需要が一般にたくさんあるとも思えない。やはりモバイルは一般性の少ない趣味の世界なのか。


前のコラムへ 表紙へ もくじへ 次のコラムへ
Copyright(C)1999. AZMA(あずま工房)
inserted by FC2 system