借家立ち退きの顛末
2010-03-15 Charles
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「この借家は老朽化のため取り壊します」
去年6月のある日、郵便受けに一枚の紙が入っていた。差出人は住宅建設会社。うちを含む借家4軒、年内に立ち退けという。青天のへきれきである。
引っ越すとなれば、新居の契約や引越代など20万円以上の出費になる。当然、立ち退き料をもらわねばならない。
庵主は25年ぐらい前にもアパートの建て替えに遭い、当時はSEの仕事が多忙だったので1円ももらわず退去したことがある。
その無念さを晴らすためにも、今回はきっちり争おうと決めた。
幸いにも(?)無職だったので平日が自由に使える。じっくり社会勉強させてもらおう。
その建設会社に電話すると、担当者は、
「立ち退き料って何ですか? そういうものを払うつもりはありません」
ととぼけて見せた。これで相手の方針はわかった。
まず借地借家法について、立ち退きの体験談などをネットで調べた。
こちらの方針。引っ越すことを前提に立ち退き料を請求する。応じなければ調停を申し立てる。それで決着しなければ裁判まで行く、と決めた。
訴訟には金がかかる。立ち退き料として20万円はとれると見て、これに“授業料”10万円を足して、30万円までは出そうと決めた。損失覚悟である。
つぎに、交渉内容を記録するために、電話を録音する専用マイクを購入。また、電話会社に通話履歴を発行するよう手続きをとった。
ところで、相手が大家ではなく建築会社なのは、建て替えを請け負う会社が追い出しを代行するからだ。これはよくあることである。つまり相手は追い出しのノウハウを持った組織なのだ。
こちらもまず専門家の意見を聞くべきだろう。そう思って、市の法律相談に申し込んだ。
担当した弁護士の回答は意外なものだった。ごく一部を要約する。
あなたのほうから立ち退き料を請求することはできません。また、その必要もない。その家に住み続ける権利は法律で保証されているので、何を言われても居座ればいいでしょう。
訴えを起こさねばならないのは相手のほうです。ただし、裁判を起こすにも50万円ぐらいはかかるので、裁判までいくことはまずないでしょう。いずれ立ち退き料を提示してくるはずです。
ン十万円ぐらいは要求できるでしょう。 (と言って、ボクの想定額20万円よりずっと多い数字を示した)
これを聞いて気分が暗転した。こちらにできることは居座り続けることだけだというのだから。
しかたがない。腹をくくって持久戦だな。
それ以降、こちらからは建築屋に一切連絡をしないという方針に切り替えるのである。
しかし、まもなく事態は急変。実家の父が倒れ、母が亡くなり、立ち退き料どころではなくなるのである。
秋口には早急に実家に引っ越すことになる。結局、建築屋から「一律ン万円」というハシタガネをもらって退去するのである。
ボクはこう考える。家というのは必ず老朽化し、いずれ建て替えなければならないもの。なのに、一度入居したら死ぬまで住んでよいという法律は無茶である。そのしわよせは弱いほうがこうむることになる。
それよりは、たとえば1年間家賃をタダにしたのちに立ち退かせることができる、というような現実的な解があるはずだ。
いまの借地借家法だと1円ももらえずに立ち退く人が出てくる。
アナタならどうする?
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