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  ほぼ世捨て人/1998年5月

持病の話

  〜 花粉症は公害だ 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 ボクは極めて健康かつ丈夫で医者いらずな人間である。眼医者、歯医者を除けば、かれこれ30年近く医者にかかってない。それでもさすがに中年になって持病といえそうなものを3つほど抱えている。いずれも生き死にには関係ないので病院に行くつもりはない。

 ごく軽い腰痛持ちである。34歳頃、自動車工場で期間従業員として働いたとき、低い位置にある工具を取ろうと上体をかがめたら腰がギクッとなった。そういうことは過去にもあったのですぐに治ると思い、3ヶ月間過酷な作業を続けた。しかし、辞めた後も痛みが取れず、6年たった今でもたまに痛み出す。おそらく一生腰痛と付き合うことになるのだろう。

 工場でわずかばかりの稼ぎを得るために一生残る障害を負ってしまった。あんなところで働くんじゃなかった、と最初は後悔した。しかし、ものは考えよう。あのときに腰を痛めなくても、いつかギックリ腰に襲われていたに違いない。40代で起こったらもっと重症になっていたはず。むしろ30代で起こったのは幸いだったかもしれない。それ以降は腰に注意して生活しているので、大きなギックリ腰にならずにすんでいる。あのときに痛めてよかったのだと思うことにしている。

 ギックリ腰はだれでも起こりうる。予防法としては、モノを持ったり上体をかがめたりするとき、腰への負担をはっきり意識すること。しっかり“本腰”を入れること。うかつにやるのが一番いけない。

 持病その2、蓄膿症。27歳の時ひどい風邪を引いた。鼻水、鼻汁が堰を切ったように流れ出した。このとき粘膜にウイルスが住みついたらしく、風邪が治っても鼻汁は完全には止まらず、以来13年、左の鼻から24時間鼻汁が出続けている。

 抗生物質を塗れば簡単に治る病気だが、医者に行くほどのことでもないと放ってある。以前テレビで、アメリカ人だったか蓄膿症で病院に行ったら、鼻の穴に差し込んだ器具が脳を傷つけて植物人間になったという話を聞いた。病院に行くときは死を覚悟するとき。座右の銘はこれで決まりだ。「生涯鼻垂れ小僧」。

 三つ目の持病は花粉症。正確にいうと病気ではない。花粉症なんてオレには関係ないと思っている人も多いだろう。ボクもそう思っていた。まだかかっていない人のために説明すると、ある年突然発症し、鼻水が出たり目がかゆくなったり。一度かかったら最後、毎年症状が現れる。  つづき

 目に細かい砂粒をぶちまけたようなザラザラ感があり、非常にかゆい。鼻水が出っ放しなのでティッシュが手放せない。ボクの場合、蓄膿症とのダブル効果なのでスゴイことになる。ポケットティッシュを5つ以上持たないと外出できない。

 花粉症に関する常識には疑問が多い。晴れた日ほど花粉がよく飛ぶというが、ボクの経験ではむしろ曇りや雨の日に症状が重くなる。

 花粉症の原因は、現代人の体質が都会暮らしで変化したからだと言われているが、納得できない。野猿が花粉症になった映像を見たことがある。花粉の量が尋常でなくなった証拠だ。都市部に被害者が多いのはコンクリートで覆われているため花粉がたまりやすいからだろう。

 日本人の4人に1人が花粉症だとなれば、もはや特殊な体質でもなんでもない。ごく普通の人に起こることなのである。現代人の体質云々は意図的なデマではないか。

 子供の頃は花粉症なんて聞いたこともなかった。日本の花粉症患者第一号は1963年だという。ちなみに手元にある71年発行『新明解国語辞典』には花粉症という言葉はない。

 雑木林や自然林では花粉は飛ばない。国が植林事業を大幅に拡大し始めたのが昭和25年前後。植林するのはたいてい経済効率の良い杉だ。花粉の量が増えるのは樹齢30年以上の杉。ちょうど30年後の昭和55年頃から花粉症が蔓延し始めた。明らかに植林事業が生んだ人災である。現代人の体質は関係ないのである。

 花粉症は、被害範囲の広さ、被害者の多さからいって騒音や大気汚染よりも遥かに大規模な公害である。にもかかわらず国も厚生省も農林水産省も林野庁もわれ関せず、なんの対策も講じていない。

 杉林の所有者ははっきりしているので責任を問うことができるはずだ。ボクは全国の花粉症患者を組織して「花粉症被害者の会」を結成し、国や自治体、企業に対して損害賠償を求める構えである。ま、構えだけだが。だれか金とヒマのある人が裁判を起こしてくれないかな。


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