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  ほぼ世捨て人/1998年8月

会社という宗教団体

  〜 信仰で成り立つ日本の会社 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 3年前、どこぞの宗教団体が大事件を起こした。信者は脱会したくてもできない、薬漬けにされ、修行にうち込む。内心いやだなと思いながら、そのうちにどんな教義も受け入れ、教団の命令に絶対服従するようになる。自分が洗脳されていることにも気づかず、悪事に手を染め、人をも殺す。マインドコントロールという言葉が流行った。テレビでこのありさまを見て、こりゃ日本のサラリーマンそっくりじゃないかと思った。

 ボクは技術畑でサラリーマンを2年、フリーランスを5年半やったが、その経験から言うと、日本の会社は宗教団体の特徴を実によく兼ね備えている。

 会社の一日は全員揃って朝の儀式、ラジオ体操から始まる。外国人にとっては異様な光景である。これを始業ベルが鳴る前にやる会社が多い。体操には給料が支払われないので無料奉仕だが、異議を唱える社員はいない。

 宗教に教義の復誦はつきもの。繰り返し教義を唱えさせ、じわじわと潜在意識に働きかけていく。アルバイトで勤めた会社では、毎日昼礼で会社の経営理念を全員で復誦していた。別の会社では毎朝「意識変われば成果も変わる」という標語を復誦した。教義と呼ぶにふさわしい佳作である。日本の職場はやたらに標語を並べ立てる世界である。「整理・整頓・清潔の3S」、「ホウ・レン・ソウ」(報告・連絡・相談)などあちこちに貼ってある。

 教団では厳しい修行やリンチで命を落とす信者がいる。日本の会社でも長時間勤務で命を落とす過労死がある。信者はなぜ死ぬまで修行を続けるのか、殺される前になぜ脱会しないのか。この疑問はそのまま過労死にも通じる。なぜ死ぬまで働くのか、殺される前になぜ辞めないのか。信者が命を落としても教団は責任を取らないし、周りの信者は口をつぐみ、同情すら感じない。これは過労死した人の会社や同僚の態度とよく似ている。

 会社の命令なら人をも殺すというサラリーマンは潜在的に少なくないと思う。かつての公害訴訟、ナントカ病の裁判などで、被告側の社員は法廷で責任逃れの弁明を続け、ひたすら裁判を長引かせ、被害者が死んでいくのを待つ。こういうことが人間として平気でできるのもマインドコントロールの成果である。

 信者は教団のためならサリンやナントカガスを撒いても少しも心が痛まない。社員は会社のためなら煤煙を撒き散らし、汚水を垂れ流し、ダイオキシンを発生させても少しも心が痛まない。  つづき

 宗教と麻薬はつきもの。多くの原始宗教で儀式に薬物を使い、幻覚作用を利用して洗脳する。オウムはLSDを使ったといわれる。日本の会社ではアルコールを使う。社員に酒を飲ませる宴会。無礼講と呼ばれるセミナーで、喋らせ、歌わせ、騒がせる。一種の集団トランス状態である。不満を発散させ、団結心を強め、組織に心酔させるのに極めて効果が高い。

 日本の大きな会社では社員寮や社宅がある。“出家信者の受け入れ態勢”が整っているわけだ。住居を押さえるというのは脱会(退社)阻止の鉄則である。

 こうして社員を洗脳し、骨抜きにし、「会社を辞めるのが恐い」、「辞めると死んでしまう」と思わせる。「仕事以外に趣味や生きがいがない」、「家にいるより会社にいる方が落ち着く」、「同僚らと宴会するのが楽しい」、「仕事を取られるのが心配で有給が消化できない」。これらはマインドコントロールにかかった典型的な症状である。

 ボクは日本で在宅勤務は流行らないと確信している。在宅勤務はいわばセミナーに参加しない在家信者。自宅にいる人間を洗脳するのは難しいからだ。

 日本の会社は帰国子女や外国人を採用したがらない。どちらも異教徒だからである。社員は同じ価値観を共有する日本人でなければならない。職場に別の教義や価値観を持ち込まれては困るのである。

 ボクは無神論者で、妄信的な信仰が嫌いで、だから宗教も会社も肌が合わない。日本の会社、特にホワイトカラーは妄信的な帰依を要求するところで、理屈が通用しない世界である。

 組織の中でボクは洗脳されない異教徒だった。教義を信じているふりをして先輩、同僚と調子を合わせていたが、信者と話すような虚しさを覚えたものだ。だから「宗教法人・会社教」から脱会した。煮ても焼いても食えない世界である。二度と戻るつもりはない。

 「会社に行くのがイヤだ」、「仕事がキライだ」というアナタ。マインドコントロールが十分でないようだ。次の呪文を毎日千回唱えなさい。

 仕事するぞ、仕事するぞ、仕事するぞ!
 過労死するまで仕事するぞ!

【会社員】 会社に良心を売り渡し、組織の利益が善悪の判断基準になった信者。<AZMAの辞典>

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