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  ほぼ世捨て人/1998年8月

気功術のトリック

  〜 野放しにできぬ超能力番組 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 以前、中国から来た「気功の達人」が方位磁石の針を動かすという秘技をテレビで見た。方位磁石に両手をかざして“気”を送り込むと針が動き出すというもの。

磁石の針を動かす気功師

 磁石の針を動かすのだから磁石を使ったトリックであることは明らか。しかし手に磁石を隠し持つと、手を近づけた瞬間に針が動くのですぐにバレる。手以外のどこかに隠し持っているはずだ。

 達人は両手をかざして針を回すような動作を繰り返した。手から気を発するというので、多くの人は手の動きしか見ていないからわからない。ボクは磁石の針が動くときに手以外のどこが動くかじっと見ていた。達人が気を集中して力んだとき、中年太りのおなかがぐぐっと前にせり出し、それに呼応するように針が動き出した。これでわかった。隠し場所は腹だ。

 最近はサマリウムコバルト磁石という小型の磁石が出回っている。普通のフェライト磁石より強力で、直径数mmの円盤状。小さいのでどこにでも隠せる。市販されているので誰でも入手可能。東急ハンズでも1個数百円で売っていた。

 気功の話をしたついでに、こんな技もある。相手の肩に手を当てて気を送り込む(図2)。「あなたの左足はだんだん重〜くなって、持ち上がらなくなります」。すると左足が鉛のように重くなり、いくら力を入れても床にくっついたように持ち上がらなくなる。体の一部が動かなくなるというよくあるトリックの一つだ。タネはバカバカしいほど簡単なのだが、人を驚かす効果は抜群である。  つづき

重心移動による気功のトリック

 相手の体を気づかないほどわずかに反対側に押すのがミソだ。体重の大半は押された方向の足にかかる。体重の乗った足を持ち上げたらひっくり返ってしまう。そういう危険な動作は小脳や脳幹といった所が禁止するため、いくら大脳で足を持ち上げろと命令しても絶対に上がらなくなる。

 これは一人でも実験できる。壁に体の側面をぴったり着けて立ち、壁と反対側の足を持ち上げてみよう(図3)。もし持ち上がる人がいたらよほど運動神経がいいか、よほど悪いかのどちらかだ。

 “気”などという漠然としたエネルギーは存在しない。文字通り気のせいである。

 気功や超能力は「中国では国家機関が研究してるんですよ」と言って信ぴょう性の高さを主張する人がいる。公務員は予算獲得のために超能力のような実態のないものを研究名目にすることがある。成果が上がらなくても責任を問われずにすむからだ。中国や旧ソ連などの共産圏が主張する超能力はすべてウソと思っていい。

 問題は、超能力、超常現象、占い、UFO…などのマヤカシ番組が垂れ流しで、規制がないこと。オウム事件の後しばらくはテレビ局もおとなしかったが、最近はまたやり放題である。

 オウム信者の中には超能力を信じて入信した者が少なくない。「本当に空中浮遊できるのか、この目で確かめたくてセミナーに参加した」なんてのが多い。まっとうな人間なら自分の目で確かめなくてもわかる。ホントかウソか確かめたいという時点ですでに信じているわけだが、こうなるのも超能力番組の影響が無視できない。

 神を信じるのも超能力を信じるのも根っこは同じ。超常現象を信じる人はすでに宗教に片足を突っ込んでいるようなもの。こういう人にマインドコントロールをかけるのは赤子の手をひねるほど簡単である。さらに彼らを操ってサリンを撒かせるのもそれほど難しいことではない。超能力番組が「だまされる者」を大量生産するのに一役買ったことはまちがいない。

 テレビでどんなたわ言を言おうが、視聴者が賢明なら問題ないのだが、一般人はそれほど賢くない。3年前のオウム事件がそれを証明した。人間はとことん愚かなのだと。

 こうも暴走する連中が出てくると、超能力番組の規制もやむなしである。視聴者はバカなのだから。


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