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  ほぼ世捨て人/1998年11月

プロバイダ選びの関門

  〜 不平等な契約文の数々 〜

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 このたびプロバイダ(BIGLOBE)に入会した。正式にプロバイダと契約したのはこれが初めてである。

 それまでは3ヵ月ほどダイヤルQ2のプロバイダ(interQ、ワイワイワイネットなど)を使ってきた。接続料金の節約とホームページ公開のためにそろそろ正式にプロバイダと契約しておこうということになったのである。レンタルサーバーや独自ドメインといった選択肢もあったが、まだ時機尚早とみて今回は見送った。

 プロバイダを決めるにあたって、かなり時間をかけてネットでいろいろ調べてみた。プロバイダ選びのサイトを参考に、うちの市内局番にアクセスポイントのあるプロバイダを20個ほどピックアップ。各社のホームページを直接回って利用条件をチェックした。

 ボクのプロバイダ選びの条件。まずなんと言ってもクレジットカードなしで支払いができること。ボクのように自由な生き方をしていると社会的信用とかいうものがゼロなので、カードを持つことは不可能。たかが数千円の接続料金を支払うのにクレジットカードとは何ごとか。今後、インターネットサービスは公共性を帯びた事業になる。公共サービスの利用に社会的信用を要求するのは差別であり、貧乏人切り捨てである。たとえば水道料金の支払いがカード決済のみなら、貧乏人は水も飲めないことになる。

 話を元にもどして、プロバイダ選びの条件。口座引き落としで支払いができること、月極めであること、ホームページが安く持てること(別料金で数千円かかるなんてところはだめ)、商用利用が可能なこと、などを条件とした。

 プロバイダ選びというのはあまり愉快な作業ではない。とても腹の立つ作業と言っていいだろう。最大の理由は、約款(やっかん)という契約書を読まなければならないからだ。

 この約款というやつは極めて読者泣かせの文章である。ひたすら自社の権利を主張するためだけに書かれ、利用者のためになることは一つも書かれていないのが普通だ。自社の利益を守るのが目的だから、いくらでも長く書きやがる。中には約款が1ページでは収まらず、リンクして数ページにもわたっているものもあり、ダウンロードするだけでも金がかかる。こんなものを延々と読まされる方はたまらない。

 約款は悪文の典型で、まともに理解しながら読もうとすると3時間以上かかる代物が多い。ボクのような国語の天才(!?)でさえ何度読んでも意味不明な文章が珍しくないのだ。(アメリカでは凡人が読んで理解できない契約書は無効になる。日本でもぜひそうしてくれ)。読んだところで、気に入らない条項を変更できるわけじゃない。どうせ契約するのなら約款など読んでも読まなくても同じこと、読むだけ時間のムダだとも言える。OSやパソコンソフトをインストールするときに「使用許諾契約書」なんてものが表示されるが、あんなものを読む人は少ないはず。たいていは読まずに「同意する」をクリックする。そうしなきゃ使えないんだから。もし苦労して読んだら、その分“読破手数料”としていくらかキャッシュバックがあってもいいんじゃないか。

 プロバイダ選びで見かけた不可思議な利用条件の数々を列挙してみよう。

 サポート受付時間。「平日10時〜18時」とか「日祭日は休み」なんてところがある。市役所や銀行じゃあるまいし。こういう所は淘汰されて当然だろう。夜11時以降は最も個人利用者の多い時間帯、いわばプロバイダの書き入れ時であり、もっともサポートが必要な時間帯でもあるのだが、サポートは夜9時までというプロバイダも多い。昼休みに1時間休憩を設けているプロバイダもある。

 こういったプロバイダはほんとに商売をする気があるのかと疑問に思ってしまう。インターネットを趣味で使っている利用者は少なくない。人が遊んでいる時にサービスを提供するのがサービス業の宿命であるとボクは理解している。一般の人がよく利用する休日に休むなんて、彼らは何か心得違いをしているのではないか。

 退会時の手続きには疑問が多い。契約する時には手続きのスピーディさを売り物にする。オンラインでカード番号を送ると仮パスワードが発行され、その日のうちに使えるのだと。さすがはインターネット、万事スピーディでスマートだ。  つづき

 ところが、契約を解除する項になると、「解約する前月の何日までに文書で通知し…」と途端にインターネット的でなくなるのはどういうわけか。その日のうちに入会できるシステムが可能ならば、その日のうちに退会できるシステムができないはずがない。

 「解約は書面で3カ月前までにお知らせください」などというのもある。月極め契約なのになんで解約通知は3ヵ月前なのだ。

 入会した月の基本料金はちゃんと日割りで計算してくれるから、いつ入会しても損はしない。ところが解約する時は、月の途中でも基本料金は一ヵ月分払えとくる。入会月の日割り計算ができて退会月の日割り計算ができない理屈はないだろう。概してプロバイダは使わない時間もいかに課金するかに心血を注いでいるように思われる。これではサービス提供の本筋から外れている。

 月極めなのに「最低利用期間1年」というのもあった。

 年契約で、更新手数料が¥5,000というところもあった。ボリすぎである。

 ある小さなプロバイダは月契約と年契約の2本立てで、年契約料金しか書いてなくて、「月払いを希望する方は月額料金をお問い合わせください」とある。なぜ月額料金を記載しないのか。ボクの想像だが、料金相場がどんどん下がっているので、料金の値下げを契約済みの利用者に知られたくないからではないか。

 ボクとしては年契約はできるだけ避けたかった。プロバイダ事業は回線増強、アクセスポイント増設など、設備を整えながらサービスを提供している。最初は設備投資のためなかなか赤字が埋まらない。が、徐々に設備投資の割合が減り、整備された設備を利用して利益を上げるので、次第に黒字になり、儲かってくる。そうなれば料金は下がっていくはずで、値上げする理由はない。年契約で1年先の料金まで払うというのは不利であろう。また、プロバイダはどんどん淘汰されていくことが予想される。倒産しても支払った料金は戻ってこないのだから、年契約などこわくてできない。

 紛争が起こった時の裁判所を指定しているものもある。異議があって訴訟を起こすなら○○裁判所(たとえば東京地方裁判所)にせよというのである。裁判沙汰になれば裁判所に通わなければならない。普通は最寄りの裁判所に訴えるだろう。プロバイダ事業は全国サービスであり、利用者とは地理的に隔たっているのが普通だから、プロバイダに都合のよい裁判所を指定しているのである。まったく要らぬ指図であり、うるせえとしか言いようがない。

 天災によって生じた障害の補償はしないという。カミナリが落ちて回線が1週間も使えなくなっても料金は支払わねばならないということだ。

 「公序良俗に反すると当社が判断した内容は削除します」とか「当社の運営に不適当と判断される内容は削除します」というのも多い。が、どういう基準で判断するのか、判断基準が明記されていない。勝手に削除するというからには、ユーザーがその判断基準をプロバイダ選びの指針にできるよう公開してほしいものだ。

 最後に、とどめはこれだ。
当社の判断で料金や規約の内容を変更することがあります。
規則はプロバイダが勝手に変えてもかまわないというのである。この一行ですべての規約が意味をなさなくなってしまう。なんのための約款か。

 約款にはありとあらゆる不平等な項目が並ぶ。大手のプロバイダは契約書の内容について郵政省かどこかの認可を受けているはずだ。役所は許認可の権限を持っているのだから、不条理な項目をきちんとチェックしてほしいものだ。

 契約書とは本来、契約する双方の権利を守るために作られるべきもの。しかし、これをチェックする公的機関がないと、契約書を作成する側(サービスを提供する側)に都合のいいことしか記載されなくなる。こうなると契約書はサービス提供者のための書類、利用者不在の書類となる。賃貸、住宅建設、銀行、生保、損保、雇用、パソコンソフト…、あらゆる契約書がそうなってしまった。


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