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  ほぼ世捨て人/1998年12月

自炊で節約生活

  〜 一人暮らしのいい加減料理 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 賄(まかな)い付きの下宿を出たのが19歳のときで、それ以来ずっと自炊している。人生の半分以上が自炊生活ということになる。

 外で働かない日は一日2食+おやつと決めている(三食取るのは時間がもったいない)から、毎日2回炊事することになる。

 現在、ひと月の食費は1万円、“有事”の際は数千円で収めることができる。生活費が全部で月7万円程度だから、エンゲル係数が高いのか低いのかわからない。もし外食にしたら食費だけで月5万円を下らないだろう。

 自分の食事を自分で作るのは当たり前という感覚だから、食事の時間になると自然に台所に足が向く。朝起きたら顔を洗うのと同じくらい当たり前のことになった。

 自炊には料理の腕が必要と思うかもしれないが、ボクには本格的な料理を作る金も時間も技術もない。作るのは簡単な手抜き料理、いや料理とも言えない曰く言いがたいものである。

 食べるのは自分だから、調理も味付けも万事いい加減である。ご飯と味噌汁は必ず作るが、あとはクズ野菜などを使って適当なおかずを作る。わかる人にはわかるだろう。

 何を作ろうかと献立を考えることはほとんどない。残った野菜や肉の量と鮮度を勘案すれば、おのずと作るべき料理が決まってくる。こう書くと複雑な検討作業のように聞こえるが、献立はほとんど即決だ。冷蔵庫を開けて中を一瞥(いちべつ)すれば、たいてい2、3秒でメニューが決まる。長くても10秒と考えることはない。材料の種類がわかっていれば冷蔵庫を開けるまでもなく自然に決まることが多い。

 大切なのは手持ちの材料に応じて献立を決めることだ。献立を決めてから材料を買うのではない。安売りしている食材だけ買ってストックしておき、それで何ができるかを考える。ここがプロの料理人と決定的にちがう点だ。ある意味でプロより遥かに制約が厳しいのである。

 ダイコンがあるから下ろして納豆に混ぜ、葉は味噌汁に入れよう。ナスが余っているから油で炒めるかホイルで蒸し焼きにしよう。…という具合に、手持ちの材料を使い切るような料理を考える。

 一人暮らしだと材料がムダになるから不経済だ、と言う人がいるが、それはメニューを決めてから材料を買うからだ。これでは節約にならない。初心者定番の失敗例だ。

 料理といっても趣味の料理ではないから、料理番組のようにカニやエビなどの高価な食材を使うわけではない。

 ありとあらゆる制約…、食材の費用(なるべく安く)、種類(手持ちの材料だけで)、分量(余った量を使い切って)、鮮度(見切り品で)、調理時間(なるべく手早く)、調理器具(なべ大小2つに中華鍋のみ)などの制約の中で、なるべくボリュームがあってうまいものができればよしとする。

 1回の調理に15分以上手をかけるということはまずない。たいていは10分余りで一食分を用意する。手間のかかるメニューは失格となる。

 水が沸騰するまでの間に材料を洗って切ったり、包丁やまな板を洗ったり、生ゴミを片づけたりと同時並行で処理する。なべがかかっている間に台所でできることを並行してやれば、なべが吹きこぼれる心配がない。料理ができ上がると片付けも終わっているという寸法だ。

 ボクが作る料理には正式な名前がないものが多い。献立例として特に手抜きでインスタントなものを2品紹介しよう。  つづき

 献立1、カレーライスもどき。

 カレーライスは、まじめに作ると野菜を炒めたり煮込んだりと、どんなに急いでも25分はかかる。時間のないときに作るのがこの“ルーだけのカレー”。なべに適量の水と市販のルーを2、3切れ入れ、煮立ったらかき混ぜてとろみを出し、ご飯にかけてでき上がり。具は一切入らず、カレー本来の味が楽しめる(?)。5分でできて味は本格的。

 献立2、さんま丼。

 さんまの蒲焼きの缶詰を暖め、汁と一緒にご飯に乗せるだけ。汁に味がついているので味付け不要。炊いたご飯さえあれば3分でできる。100円の缶詰を丸ごと使ったぜいたくな一品だ。

 1人で食べる自炊は味気ないと感じる人もいるだろう。ボクの場合、一人暮らしが長いせいか、他人と一緒の食事はかえってわずらわしい。食事を味わいながら会話を楽しむというのができないタチで、どっちか一つにしてくれと思う。食事のペースを人に合わせるのも面倒。トイレに入る時は一人の方が落ち着く、それと同じだ。

 自炊が挫折しやすい理由。一般に料理がめんどくさいから、と考えられている。が、腹が減れば食べないわけにいかないから、料理は面倒でも作るものだ。挫折の原因は調理よりむしろ皿洗いにあると思う。食器洗いには楽しい動機がない。満腹になってリラックスした後で、立ち上がって皿が洗えるかどうかがポイント。冬は水も冷たくて辛いものだ。

 まったく同じ茶碗と皿を1年に何百回も洗う。永遠ともいえるこの繰り返し作業に耐えらない人は多いのではないか。

 しかし、皿洗いも手を抜こうと思えば可能だ。洗剤をつけて洗うとすすぎに時間がかかるので、洗剤は使わない。スポンジも使わない、一切こすらない。貯めた水に皿を浸けておくだけ(油汚れはあらかじめ紙で拭き取る)。これでも結構落ちる。次の食事のときに水から取り出し、さっと蛇口の水をかけ、そのまま使う。ぬるぬるしてきたら週に一度ぐらい洗剤をつけてまじめに洗えばよい。皿、茶碗、カップ、コップ、使うのは自分一人だからこれでいいのだ。

 もっと時間があれば家庭料理の基本から習得したいと常々思っている。ダシの取り方、味付けのコツなど、料理の基本を知っていれば、毎日死ぬまで安くてうまいものが口に入る。料理は老後も役立つ一生モノの技術だ。主婦を雇う経済力のないボクには計り知れない恩恵がある。

 食料品はもっぱらスーパーで買い出しする。コンビニは割高なので論外だ。近所のスーパーを3店ほど使い分ける。パンならこの店が安い、味噌はここ、というように店の特徴に応じて買う物を決める。

 食材は安売りのものをランダムに買い込む。野菜は期限のせまった処分品を30円、50円で買う。保存の利くものはセールのときにまとめ買いする。売れ残りは雨の日、定休日の前日夜に多い。セールは給料日前が安い。

 余談だが、以前、家計簿をつけていた頃、スーパーのレシートを細かくチェックしたら値段のまちがいが意外に多いことがわかった。表示より高い値段で入力するケースがほとんどだ。半額シール、20円引きシールなどを見逃して入力することも多い。多くの客は気付かぬうちに損をしているのだ。

 レジでお金を払ったら、品物を袋に詰める前にレシートにざっと目を通して値段をチェックすること。ボクはこの方法で払い過ぎたお金を何度も取り戻している。


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