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  ほぼ世捨て人/1998年12月

たばこの真実

  〜 喫煙の悪習が広がった理由 〜

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 ボクは酒は飲まない、たばこも一切やらない。

 こう言うとたいていの人は「真面目だね」という。人生には酒やたばこ以外に山ほどの楽しみがあることを知らないらしい。打ち込みたい趣味がたくさんあって、酒やたばこなんぞに人生の貴重な資産(お金、時間、健康)を浪費したくないのである。

 「たばこは健康に悪いよ」と言うと、喫煙者は「オレは太く短く生きるんだ」と言う。たばこを吸う人生のどこが太いのかは不明だ。「細く短く生きる」のまちがいだろう。自慢げに「オレはいつ死んでもいい」とうそぶく手合いがいるが、「やりたいことがなくてムダに人生送ってます」と告白しているようなもの。

 健康被害について、喫煙者の自分に対する言い訳は「たばこと健康の因果関係はまだ証明されていない」というものだった。さすがに今時そんなことを言う人は少ないが、10年、15年前にはごまんといたのだ。因果関係が明らかになるまで吸い続けて病気になって後悔している人も多いだろう。君子危うきに近寄らず。何ごとも危険性が証明されてからでは遅いのだ。

 日本は禁煙後進国である。WHOの調査によると、日本人男性の喫煙率は59%。先進国では韓国68%、ロシア67%、中国61%に次いで第4位という成績。ちなみにフランス40%、ドイツ37%、アメリカ・イギリス28%と、西欧の先進国は低い傾向にある。これを見る限り、喫煙率と民度には負の相関関係がありそうだ。

 エンジニア時代(15年ほど前)、職場はたばこ天国。煙が充満し、空気は汚れ放題。たばこを吸わないボクでも、一日働けば何本も吸ったのと同じ。つまらない仕事のために肺ガンで死にたくないなと思った。

 他人の迷惑を考えるようなマナーのいい喫煙者は一人もいなかった。もっとも自分の健康に無関心な者に他人の健康を思えと言ってもムリな話なのだが。  つづき

 当時すでに欧米ではたばこを吸わない権利、嫌煙権が確立、職場や飛行機などの禁煙が叫ばれ、実現していた。彼の国の健全なる人権意識がうらやましかった。日本社会の閉鎖性を考えれば、ボクの目の黒いうちに日本で嫌煙権が確立することはあるまいと思っていた。

 ところがどうだ。昨今の日本でも電車や駅のホーム、会社の禁煙が増えた。「飛行機が全席禁煙」などのニュースを見ると、つくづく変われば変わるもんだと感慨深くなる。外圧は必要だなと痛感する。もっとも職場の禁煙が広がる前にボクの方はさっさとビジネス社会から足を洗ってしまったが。

 アメリカのたばこ業界がたばこ訴訟で窮地に立っている。たばこ産業は昔から映画を巧みに利用することで売上げを伸ばしてきた。映画の中で主役のハリウッドスターにたばこを吸わせるという手口だ。撮影中の監督のところにはたいていたばこ会社から小道具のたばこが差し入れられると米CBSニュースでやっていた。

 かっこいい俳優がうまそうにたばこを吸う。それが映画のワンシーンとして観客の印象に残る。ハリウッド映画は全米、全世界に配給され、それが喫煙の習慣を広め、売り上げアップにつながる。

 そんなことで人はだまされるのかって? 世界中の愚か者がだまされたのである。たばこを吸うのはかっこいいことだという観念を植えつけることに成功。世界中の哀れな男が嗜好品として、小道具としてたばこを愛用し、進んでニコチン中毒になった。もし映画の中でたばこを吸うのがヨタ者ばかりなら、喫煙という悪習はとうに廃れていたかもしれない。

 たばこを吸うと毛細血管の収縮でボッキ力が低下する。日本ではなぜかほとんど言われていないが、アメリカの医療専門家の間では昔から常識だという。ベッドでたばこを吸う男はインポなのだ。たばこやめますか、男やめますか。そういや「ベッドで煙草を吸わないで」という歌もあったナ。


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