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  ほぼ世捨て人/1998年12月

新聞勧誘の断り方

  〜 押し売りにはこう対処しよう 〜

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 合法とされる職業の中にも“あると迷惑な職業”が結構ある。新聞の勧誘員、訪問販売員などはその代表だろう。

 勧誘は“なくても困らないもの”を売る仕事である。新聞、生命保険、分譲マンション、宗教。人に勧めたり売りに来るのは、それが必要ないからだ。本当に必要なもの、たとえば食料品や日用雑貨はこちらから買いに行くので勧誘の対象になりにくい。

 ボクは新聞をとらない主義である。新聞を読まなくても生きるのにまったく支障がないし、つまらないニュースに気分を害することもない。

 勧誘の中でも特にしつこいのが新聞勧誘。といっても家族と住む勤め人などは、直接拡張員に応対することがないのでピンとこないだろう。日本では一人暮らしを始めれば、誰でもじきにしつこい新聞勧誘の洗礼を受ける。

 ボクのように一人暮らしも二十年を越えると、新聞勧誘にまつわる不愉快な話はいくつもある。なにしろ断ってすぐに帰るような相手ではない。断ると捨てゼリフを吐くようなヤツは珍しくない。ある勧誘員は、「これは無料で配ってるチケットです」と言って持たせ、なおもしつこく勧誘し、見込みがないとわかるとチケットをもぎ取って帰っていった。

 新聞勧誘員が家人を殺害したという事件をテレビで見た。そんな危険な輩が各家庭を回っているとすれば恐ろしいことだ。

 二十年近く前、東京の安アパートに住んでいた。ノックがあってドアを開けると、図体のでかい安岡力也のような男が立っていた。新聞の勧誘を始めたのですぐに断ると、男は態度を一変させて居直った。ドスの効いた声で怒鳴った。

「おい若造、なんだその断り方は!オレを誰だと思ってんだ。新聞勧誘員はな、ヤクザ上がりやムショ帰りが多いのを知らねえのか。タダじゃすまねえぞ、この野郎!」

 男は片足をドアのすき間につっ込んでいたので、ボクはドアを閉めることができず、安岡力也の演説をたっぷり聞かされるハメになった。

 なるほど、ヤクザ上がりやムショ帰りが多いのか。以後、ボクは安岡クンの貴重な情報を信じることにした。

 のちに同僚にこの話をしたら、「新聞は“エリートが作ってヤクザが売る”っていうからね」。そういう言葉があるとは知らなかった。

 新聞勧誘は日本独特の社会問題だが、新聞やテレビで取り上げられることはまずない。勧誘のトラブルを新聞社に持ち込んでも、「勧誘は販売店がやっていること。当方は一切無関係。」と答えるにちがいない。  つづき

 ボクの体験から得た、しつこい勧誘や訪問販売を追い返す方法を紹介する。最も大切なのは絶対にドアを開けないこと。これにつきる。

 ドアのノックがあったら、まず閉まったドア越しに「どなたですか」と聞く。

 ノックしていきなり用件を言う勧誘員はまずいない。拡張員なら「お宅は新聞、ナニ入ってますか」と聞いてくるのが多い。

 もちろん初対面の人に購読している新聞を教える必要はない。また、これ以外のどんな質問にも答える必要はない。質問に答えるのは向こうだ。相手が名乗るまで同じ質問を繰り返すこと。

 相手は「××新聞です」とか「○○の説明にうかがいました」と言わざるを得ない。相手に用件を言わせたらこちらの勝ちだ。

 勧誘員は用件を明かさないまま、言いたいことからペラペラと喋り始めるもの。人は用件がわからないと断ることができない。これでは勧誘員のペースで話が進んでしまう。

 相手の用件がわかったら、後はきっぱりと断るだけ。「いらない」の一点張りでよい。どんな理由も補足説明もつけ加える必要はない。余計な説明は相手に話の取っかかりを与えるだけ。

 2、3回断ってもまだ立ち去らないようなら放っておけばよい。見込みがないとわかればそのうち帰る。絶対にドアを開けてはならない。開けたら最後、興味を示したと取られてしまう。

 こちらから発する言葉は、誰何(すいか)して用件を言わせること、いらないと断ること、この2つだけだ。

 敵もさるもので、勧誘と気づかれずにドアを開けさせるテクニックもある。ノックしていきなり「こんちわー、毎度どうも!」となじみの店を装うヤツ。宅配を装っていきなり「○○さんのお宅ですか」と声をかける拡張員もいる。これでうっかりドアを開けてしまう人はシロウトだ。これらに対しても対処法は同じ。「どなたですか?」から入ること。

 勧誘に対してドアを開けて断ろうというのは大きなまちがいだ。ドアを閉めたまま応対するのが一番苦労が少なく、危険を回避でき、お互い時間のムダが省けるのである。

 安岡力也と対決したくなかったら、ゼッタイにドアを開けるな。


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