ほぼ世捨て人/1999年1月 主婦業の値段 〜 家事の賃金は請求できるか 〜 |
最近、テレビでこんな話を聞く。「主婦の家事労働は一日7時間以上に及びます。これを賃金に換算すると年間300万円以上になります。」といったものだ。さらに「主婦は家族のためにタダ働きしているので、夫に家事労働の賃金を要求する権利があります」とつけ加える。 主婦が夫に家事の賃金を請求できるとは何たる珍説か。ボクは独身だからどうでもいいが、こんなデタラメにだれも論理的に反論しないのは不思議である。 「主婦業の値段」報道の根拠になったのは経済企画庁が出した報告書であるらしい。インターネットで見ることができるので読んでみた。(*) (注*) 経済企画庁 経済研究所 国民経済計算部なるところが出した次の報告書がそれ。 炊事、掃除、洗濯、介護、育児などの家事労働は、 「家族や他者に対価を要求することなく労働力を提供するという意味で、市場で労働力を提供して対価を得る「仕事」=「有償労働」に対して、「無償労働」と呼ぶことができる。」 とし、これらを賃金に換算するといくらになるかを計算している。 それによると、家事の年間評価額は、専業主婦の場合、平均304万円、年代別の最高額は30〜34歳代で410万円になるという。ちなみに男性の家事労働は同年代で70万円となっている(数字はすべてボクが丸めた)。 いま専業主婦の家事労働の評価額を410万円として話を進めよう。まず410万円をそっくり夫に請求することはできない。夫も70万円分の家事を提供しているからだ。よって、差し引き(410万−70万=)340万円が妻の夫に対する貢献ということになりそうだ。この額を夫に請求できる? ちょっと待ったー。家事のすべてが夫のためというわけではない。妻が作った食事の半分は妻自身が食べる。掃除した家は妻自身が住んでいる家でもある。洗濯物の中には妻自身のブラウスやパンツも含まれている。 つまり妻の家事(夫の家事もそうだが)の半分は自分自身のためである。そんな作業にだれが賃金を払うものか。育児も同様。子供は妻と夫、両方のものだから、育児の半分は妻自身のためと考えられる。 |
ちょっと待ったー。大切なことを忘れている。妻の生活費を差し引かなければいけない。妻が食べる食事の材料、妻が着ている服も化粧品もハンドバッグも、夫が働いて稼いだ給料で買ったものだ。その代金は夫に支払わなければいけない。 妻が使っているテレビも掃除機もクルマも、ミルク代、教育費、光熱費、家のローンや家賃、年金や保険の掛け金、すべて妻もその半額を負担しなければスジが通らない。 家事労働の報酬170万円から、妻が夫に支払うべき諸々の生活費を差し引くと、さていくら残るかな。残らない? 残らないどころか、妻の方こそ生活費を入れなければならないかもしれない。 妻の家事労働の報酬は、夫の収入で生活することで十二分に相殺(そうさい)されているのである。ちょっと考えれば当たり前のことだ。 そもそも報告書には「妻は家事労働の評価額を夫に請求できる」なんてどこにも書いていない。マスコミが勝手に付け加えた解釈である。そんな番組を見せられたら、ちょっと頭の弱い主婦なら、「アラ、あたし家事の報酬、もらってないわ」と、心中穏やかでなくなるだろう。これでは家庭不和のもと。マスコミも罪なことをするものだ。 経済企画庁は何の目的で主婦業の価値を計算したのかというと、一国の経済活動全体を記録する必要からである(それが彼らの仕事の一つだ)。家事労働を国から見た経済活動として見ている。よって個人にとって労働とはいえないようなこと…授業参観とか、子供の遊びの相手、運動会の応援といったことも育児として賃金に換算しているのである。 評価方法としては、家事をせずにその時間働きに出たらいくら稼げるか、という基準で計算したという。確かに自分の食事も作らず、子供の世話もせずに外で働けば、400万円ぐらい稼げるかもしれない(そのお金でお手伝いさんを雇えば家事をするは必要ない)。でもそれがいやだから専業主婦をやっているのだろう。 報告書では、家事に対して「無償労働」という誤解を招きやすい用語を当てた。これではタダ働きという印象しか与えない。夫の収入で生活を保証されているのに無償労働はないだろう。作成チーム10名のうち5名が女性であることに関係がありそうだ。 結論。働かない主婦が夫に賃金を要求するなんてバカも休み休み言え、という至極当たり前の結論となる。 専業主婦のアナタ。家事の報酬を旦那に請求しようなんてヘンな気を起こしてはいけない。ボクが夫なら逆に生活費を請求する。 【専業主婦】 職につかず、もっぱら家事にあたる主婦。<広辞苑> |