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  ほぼ世捨て人/1999年1月

自転車ツーリングの危険

  〜 自転車は命がけの乗り物 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 自転車歴35年、サイクリングはボクにとってもっとも古くて中心的な趣味である。

 サイクリングは非常に危険な遊びでもある。冒頭からこんなことを言うのもなんだが、いまからサイクリングを始めたいという人には「おやめなさい」と言いたい。現代の交通事情は自転車が安全に走れるようにはなっていない。命がいくつあっても足りないのである。

 アナタの注意力を疑っているのではない。自転車はどんなに的確な運転をしても避けられない“もらい事故”が多いからだ。交通法規を守るだけでは命は守れない。はっきり言えば、安全は回りのドライバー次第なのである。

 自転車の運転は難しい。決してなめてはいけない。安全に走るには高いレベルの注意力、判断力、危険予知能力が必要となる。

 自転車が走るのはもっとも危険なレーンだ。道路の左端は路面がガタガタでハンドルを取られやすく、排水溝のフタあり、路上駐車の車あり。後から追い越す車あり、左折する車あり、前から右折する車あり、路地から飛び出す車あり、歩道から出てくる歩行者あり。常に前後左右に気を配り、一瞬たりとも気が抜けないのである。

 そこへいくと車はもっとも安全な車線の中央、平坦で障害物のないところを走るのだから、車の運転はバカでもできる。

 ツーリングでどのコースを走るかは常に頭を悩ませるところだ。どの道を選ぶかは生死にも関わる。単に景色がいい道を選ぶというだけではすまない。最優先するのは交通事情。いかに車が少ない安全な道を探すか。ツーリングが成功するも失敗するもこれにかかっているといってもいい。コース取りに失敗したツーリングは不愉快な思い出と徒労感しか残らない。

 交通量の多い国道はできれば避けたい。では県道や地方道がいいかというと、そう単純にはいかない。むしろ路肩が狭く歩道がない分、手に負えない場合も多い。それを地図だけで判断するのは難しく、正確な道路事情は行ってみるまでわからないのである。

 市街地走行の場合、歩道を走るか車道を走るかは自転車乗りの永遠の悩みかもしれない。歩道なら右の歩道か左の歩道か。ベストな選択は道路によって異なるのはもちろん、同じ場所でも時間帯、交通量、通行人の多さ、曜日、急いでいるか時間に余裕があるか、自分の体力・脚力などによって変わってくるので、その時々に応じて判断しなければならない。

 歩道走行には歩道特有の厄介さがある。路地からの車の飛び出しと進路妨害、縁石の段差。また、狭くて歩行者の多い歩道に入るとまともに進めないこともある。

 バックミラーで見て後続車がいない時だけ車道を走る、といったテクニックも必要になってくる。歩道を走っておけば安全だろうと考えるのはシロウト。それほど単純ではないのだ。

 車道走行の場合、危険なのは後ろから追い越してくる車に対して対処しきれないことだ。サイクリングとは自分の命を後方のドライバーに委ねた遊びだと言える。

 ボクはバックミラーは必需品と考えている。これがなければこわくて走れない。走行中、注意力の3〜4割をミラーに割いている。どういう車がどの程度のスピードで近づいてくるかを常に監視する。  つづき

 「後ろから迫る危険をミラーで確認できても、避けられないのだから意味がない」という意見もあろう。しかし、危険が迫っていることがわかれば、心の準備をし、筋肉を緊張させて衝突に備えることができる。一瞬の身のこなしが生死を分ける可能性もある。

 ツーリングの服装でもっとも大切なことは、動きやすさでも防寒でもない。目立つ色を身に着けることだ。路上でアナタの存在がはっきりわかること。色は原色がよく、くすんだ色では不注意なドライバーに見落とされてしまう。特にアスファルトと同じ灰色は避ける。

 これからどうしてもサイクリングを始めたいという人は、一般国道を走るのであれば、楽しいことより不愉快な出来事の方が多いことを覚悟しなければならない。国道を2、30キロも走れば無謀なドライバーに何度も出くわす。これじゃ楽しいわけがない。

 無謀なドライバーには運転の仕方を教えてやることが大切。自分の命が不当に危険にさらされたのだ。にらむ、怒鳴る、ツバをはく、できることは何でもやるべきだろう。黙っていては世の中よくならない。

 それでも15年、20年前に比べれば、ドライバーの運転マナーは幾分向上している。昔はスピードを出したまま自転車の横スレスレを追い越す輩が多くてヒヤヒヤしたものだ。追い越す時にクラクションを鳴らす不届き者もいた。近年はこの手合いが減った。マウンテンバイクブーム、健康ブームなどが自転車に対する一般ドライバーの認識を変えたということもあろう。

 運転モラルは民度に比例する。日本もいくらか民度が向上したということか。

 自転車と大型車は水と油だと言える。特に自転車の天敵はトラック。スレスレを追い越していくのがいてヒヤッとすることがある。トラック運転手は民度が低いということか。

 クルマしか乗らなかった人がサイクリングの楽しさに目覚めて自転車に乗り始めたものの、車の横暴さに嫌気がさしてクルマに戻った、という人は多いのではないか。立場が変わって初めて気づくわけだ。

 路上での自転車の地位は低いので、腹の立つ出来事には事欠かない。ある意味で人間(ドライバー)の本性が見える乗り物だ。自転車に乗れば人間嫌いになる!? ボクはそのせいで世捨て人になったのか? 少し自転車に長く乗り過ぎたようだ。35年乗ってるからナー。

 サイクリングなんてやらない方が身のためだ。スカイダイビング、パラセーリング、ロッククライミング、危険なレジャーはいろいろあるが、これらは自分のやり方さえまちがわなければ危険を避けることができる。サイクリングは自分の注意力だけではどうにもならないという点でどんなレジャーよりも危険だろう。

 自転車ツーリングは車との闘いである。長年ツーリングをやってきたが、最近、車と闘うことに疲れてきた。車と闘っても勝ち目はない。命のあるうちにやめなきゃと思っている。このまま乗り続けるのはひき殺されるのを待つようなものだ。

 お金がたくさんあったらクルマを買って、ひき殺す側に回りたいと思っている。


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