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  ほぼ世捨て人/1999年2月

便所のくみ取りも楽じゃない

  〜 くみ取り料金が払えない 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 今年度、市に支払った市民税・県民税は合わせて3万6千円にのぼった。貧乏な割には大変な高額である。しかし市や県からその額に見合ったサービスは受けていない。

 市民税は何に使われているか。ボクより何倍も高給取りの市職員の人件費に使われ、立派な体育館、野球場、プール、テニスコート、陸上競技場などを作り(どれも一度も使ったことがない)、それらの維持・管理に使われている。県民税に至ってはまったく名目不明。ボクが受けるサービスと言えばせいぜい市立図書館や公園が無料で使えること(年に数回しか行かないが)、燃えるゴミ、分別ゴミを持っていってくれることぐらいか。粗大ゴミは有料だし、水道料、“し尿”くみ取り、住民票写しも全部別料金だ。

 それどころかボクの税金で道路を整備してますます車が増え、車を持たないボクは大変迷惑をこうむっている。税金を支払うどころか逆に市から迷惑料をもらいたいくらいである。自分が払った税金で迷惑をこうむるくらいなら、税金をドブに捨てた方がまだマシというものだ。

 わが家(借家)のトイレは水洗ではなく汲み取り式、ポットントイレである。し尿くみ取り料金は、一人住まいの場合、ひと月290円。支払いは290円分の“証紙”を買い、伝票に貼り付けて外にぶら下げ、それをくみ取り作業員が回収するというシステム。

 証紙とは切手のようなもので、市のサービスを受けたときに料金を徴収するために市役所が発行するもの。この証紙を買うのが容易ではない。当然市役所の窓口で買えるものと思うだろうが、市役所では証紙を売らない。どこで買えるかというと、「市内のたばこ及び米の販売店」で売っているというのだ。

 引っ越してきたばかりの頃、どこにたばこ屋や米屋があるのかわからなかった。市の窓口で具体的にどこの店で売っているのかと聞いたら、担当者は口を濁して教えてくれないのである。証紙を委託販売している店を教えないとはどういうことか。ボクの同僚も同じ目に遭ったと言っているので、ボクだけではない。

 それでも証紙を買わねばならない。近所付き合いはないので近所の人に聞くわけにもいかない。仕方なく貴重な休日に商店街まで出かけ、たばこ屋や米屋を探し回るはめになった。大変な時間のムダである。第一、ボクはたばこなんぞ吸わないし、米はスーパーで標準米しか買わないから米屋に用はない(標準米を買う客は米屋では客扱いされないという)。

 苦労してたばこ屋を2、3件見つけたが、証紙は売っていなかった。店員が「向こうの酒屋にありますよ」というのでその酒屋へ行くと、あった、やっと証紙を見つけた。証紙だけ買うというわけにもいくまいと思い、気が小さいので証紙と一緒に焼酎を1本買う。

 以後、この酒屋で証紙を買うことになった。酒なんぞ飲まないのでまったく不経済な話である。飲まない酒を毎月買ってはいられないので、証紙は数ヶ月分まとめて買うようにした。酒はミリン代わりに料理に使うことにしたが、それでも余計な酒ビンが増えていく。

 お金を持って市の窓口へ行き、し尿処理伝票を買いたいと言っても売ってくれない、おかしな話である。「郵便局窓口では切手を売りません。たばこ屋、米屋で買って下さい」というのと同じくらいおかしい。  つづき

 市の窓口で証紙が買えれば余計な買い物をせずにすむのに。なぜ市はこんないやがらせをするのか。余計な買い物をさせるためである。地元の個人商店に証紙を置き、他の商品も一緒に買わせて地元に金を落とし、納税額を増やそうという魂胆なのだろう。スーパーしか利用しないボクは値段の高い個人商店なんぞに用はないのでいい迷惑である。

 市役所のいやがらせに負けて不要な商品まで買うことはないと思い、ある日いつもの酒屋で証紙だけ10回分買おうとした。店の老女は「アーラ、ごめんなさい、1回分しか残ってないわ。」と言うので、その時は1回分だけ買って帰った。翌月、同じ店でまた証紙だけ「10回分下さい」と言うと、ババアはまた「アーラ、ごめんなさい、1回分しか残ってないので…」ときた。これでわかった。販売拒否である。証紙だけ売っても儲けにならないからだ。

 二度とこのババアの顔は見たくないので、翌月から別の店で買うことにした。再び貴重な休日を使い、証紙を売る店を探して自転車で随分走りまわったが、これがなかなか見つからない。

 3日目の捜索でやっと見つけた。一駅となりの商店街の小さな食料品店。家から自転車で片道25分もかかる。ここで証紙10回分と一緒に吸いもしないたばこを5箱買った。今度は金だけでなく時間までかかるようになった。まったく腹立たしい。

 ある日、証紙を買いにその店に行くと、80歳前後のおじいさんとおばあさんが店番をしていた。証紙と一緒にたばこを買っても捨てるだけなので、100g入りのインスタントコーヒー(ネスカフェゴールドブレンド)のビンを棚から取り、レジに差し出した。おじいさんはコーヒーの値段がわからないので、コーヒーの棚に値札を見に行ったが、そこにも値札がついていなかった。おばあさんが「600円ぐらいじゃなかった?」と言った。

 二人の老人は相当ヨレヨレなのでモタモタしている。金額の合計、消費税の計算に(そろばんで)5分以上かかっている。千円札を渡して随分時間がたち、やっと手書きのレシートを渡されてびっくり。コーヒーの値段が920円になっている。やられた。ぼったくりである。自分で食料品を買わない人はこの値段がどれほどベラボウかわからないだろうが、普通この商品はスーパーで五百円台で買える。ボクは普段、低価格のコーヒーを100g入り298円で買っている。値札の付いていない品物を選んだのが失敗だった。ソンの上塗りだ。

 ジジイよ、もうすぐお迎えが来るのにそんなにがめつく稼いでどうする?天国へ行きたくないのか。あの世まで金は持って行けないぞ。

 個人商店がこんな悪どいやり方でよく商売などやっていられるものだ。腹が立つやら呆れるやら。こんな店、二度と来るもんか。と言いたいところだが、そうもいかないのだ。他に証紙を売る店を知らないのだからここで買うしかない。この店だってやっと見つけたのだ。くやしいっ。

 市政がデタラメなら個人商店もデタラメ。市と個人商店が癒着した市政。防衛手段を持たない市民としては迷惑千万だ。できることならこんな街には住みたくない。市の行政はすべて民営化すべきだ。

 ムダに払った税金を取り戻すため、老後は生活保護を受けようかと思う。


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