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  ほぼ世捨て人/1999年12月

日本の履歴書ここがヘン

  〜 履歴書書きにまつわる苦悩 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 不況で失業者が増えて履歴書がよく売れているらしい。ボクもときどきアルバイトの職探しをすることがあり、現に今も探しているところだ。

 履歴書を書くのはいつもうんざりする。バカでもできるアルバイトになんで履歴書が必要なのかと思う。

 日本の履歴書、おかしいのはまず年齢、性別の記入欄があること。当たり前だ?ちっとも当たり前ではない。男女雇用機会均等法により就職時の性差別が撤廃されたはず(といってもこれは表向きで、実際は男の仕事、女の仕事が厳然とあるが)。

 求人の性差別は禁じられたが、年齢による差別は依然としてやりたい放題である。何の意味があるのか知らないが「27歳迄」とか「39歳迄」などと細かく指定してある募集が珍しくない。45歳以上ともなると正社員はもちろんアルバイトでもほとんど募集がない。これは日本独特の慣習で会社も社会も年齢による階層構造を成していることに原因がある。意味のない年齢制限を禁止する時代がいずれやってくるはずだ。希望的観測すぎるか。

 アメリカでは履歴書に年齢や性別を書かない。雇用主が年齢や性別の記入を強制することも禁じられている。その仕事が勤まる能力があれば年齢や性別は関係ない。それが先進国の常識だ。

 アルバイト情報誌に載っている「履歴書の書き方」の説明を見ると奇妙なことだらけだ。学歴は小学校の卒業年度から書けという。最終学歴だけで十分じゃないか。学校名も「ナントカ市立〜」から書かなければいけない。しかも高校からは入学と卒業で学校名を二度書かなければならない。「〃」で略すのは手抜きだという。会社名も(株)と略さず、株式会社と書けという。

 「志望の動機」なんて欄があるが、空欄にしとくと仕事に意欲がないと見られてマイナスだというから笑っちまう。アルバイトに志望の動機だって?求人雑誌で見かけたから、家に近いから、時給がいいから…。それ以外に何の動機がある?  つづき

 「好きな学科」なんて欄もある。おいおい、おじさんは学校を卒業して何年たつと思ってるんだ?

 履歴書にはなぜか写真貼付を要求される。タレント志望じゃあるまいし…。ちなみにアメリカでは写真は人種差別のもとになるので履歴書には絶対に貼らないそうだ。

 さらにスピード写真は好ましくないという。変色するからか。履歴書は応募書類であって保存書類じゃないぞ。保存が必要なら採用が決まってから会社の負担で作成すべきだ。

 履歴書で一番困るのは手書きしなければならない(らしい)ことだ。一度パソコン入力しておけば何枚でも印刷できるというわけにはいかない。ボクのように職歴も長くなると大変だ。字は「ヘタでもいいから楷書で丁寧に」書けという。人事担当者は履歴書で筆跡占いでもしようというのか。おかげで1枚書くのに45分ぐらいかかる。1箇所でも書き損じると書き直し。「修正液の使用は好ましくない」という。ゴミのような仕事を得るために貴重な時間を費やすのが実にもったいない。

 履歴書が手書きなのは「字は“人となり”を表す」という思想が残っているからだろう。小学校時分の先生は、字が曲がっているのは精神が曲がっている証拠だと言っていた。外国人が聞いたら卒倒しそうな理屈である。字は人格を表すのではなく意味を表すだけだから、読めればそれでいいのだ。

 ちなみにアメリカでは履歴書はタイプライター(最近はパソコンだろう)で打つのが常識であり、その方が手書きよりポジティブに判断される。日本とは逆だ。また日本のような決まった様式の履歴書がなく、自由な書式で経歴を書く。

 この電脳の時代にあって、日本の履歴書はなぜか前時代の慣習を引きずっている。“人に使われない”生活が実現するまであと何枚このくだらない書類を作成しなきゃいけないのだろう。


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