前のコラム 庵ホーム ほぼ世捨て人もくじ 次のコラム

  ほぼ世捨て人/2001年4月

エイズよりこわい人権

  〜 エイズ予防は人権との闘い 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 エイズと患者の人権。これはとてもヒステリックな状況にある。人権侵害といえば泣く子もだまる時代。感染防止は患者の人権擁護と相反する問題だから、マスコミなどはハナからおよび腰で、感染防止のことには触れたがらない。ボクは予防の切り口からエイズを取り上げたい。抗議が来るのは承知の上だ。

 エイズの感染防止はほとんど無策に近い。日本には5千人程度のHIV感染者がいるらしいが、感染者の秘密は固く守られている。エイズは主に性行為によって感染するが、相手が感染者かどうかは神のみぞ知る、ロシアンルーレット状態である。

 誰が感染者かわからなくしておいて予防もないものだ。結局「不特定多数との性交渉は避けましょう」というのが関の山。“特定少数”、たとえば配偶者が感染者でないという保証はないのだから、これは対策とは言えない。

 5千人の人権を守るために残り1億2千万人の命を危険にさらしているわけだ。エイズに感染していない人には「他人からエイズを移されない権利」があってもいいはずだ。

 エイズに最善の予防策があるとすれば、感染者リストを公表することしかない。が、今の時代、そんなことをしたらたちまち人権擁護派の餌食になってしまう。感染者と健康な人が共存して生きる、これが現代のトレンドなんだそうだ。

 エイズが伝染病である以上、HIV感染者の行動がある部分で制限されるのはやむを得ないと思うが、この理屈が今は通用しない。大切なのは「エイズ患者にも普通の生活を保証すること」だという。

 昔は感染力の強い伝染病がいろいろあった。赤痢、結核、コレラ、天然痘、腸チフス…。子供の頃、町内でときどき赤痢が流行った。下痢が続いて病院へ行く。病原菌が見つかれば、もちろんその場で強制隔離だ。すぐに保健所が家にやって来て、中も外も完膚なきまでに消毒剤をまく。親、兄弟、一族郎党、接触した人みな検査を受ける。差別もへったくれもない。個人の権利よりも伝染防止という公益が優先された。人権やプライバシーといったわけのわからない理屈が入り込む余地はなかった。

 今はどうだ。HIV感染者の束縛などもってのほか、名前すらわからないのである。もちろん経口感染する伝染病と、血液・精液を媒介にするエイズとは一緒にならないが、だから感染者が野放しでいいということにはならない。感染者にも守るべき義務があってしかるべきだ。  つづき

 ネットで調べてみたら、「エイズ予防法」なる法律を見つけた。ざっと目を通すと、この法律(平成元年版)は欠陥だらけだ。予防法とは名ばかり、予防の部分は骨抜きになっており、実質は感染者の人権擁護の側面が強い。

 感染者の行動を直接禁止する規定は次の条文しかない。

「感染者は、人にエイズの病原体を感染させるおそれが著しい行為をしてはならない。」

 感染させるおそれがあっても著しくなければいいのである。しかも罰則規定がない。運悪く人に移しても「すまん、すまん」ですむわけだ。

 感染防止は感染者の良識にまかされているのが現状。よもや他人にウィルスを移すような行為はしないだろうという前提だ。性善説である。

 いや、とんでもない、そんな甘い前提など成り立たないぞ、という番組を見た。98年放送のTBS『48アワーズ』(アメリカ・CBS制作)。アメリカのエイズ患者支援グループ(!)のメンバー数人がHIV陽性であることを隠して複数の恋人と性交渉を持ち、感染させたと証言。また別の男は感染を隠して結婚生活を続け、妻に感染、死亡させた。

 曰く、HIVのことなど言えるもんじゃない、ウソをつくのは当然で、告白したら仕事も友人も失ってしまう。これが彼らの言い分だ。

 彼らを異常な連中だとは思わない。むしろこれが感染者の取る普通の行動ではないかという気がする。たとえ隠すことの代償が“愛する人の死”だとしてもだ。人の命を犠牲にしてもおのれの子孫を残したい、これが本能だ。性善説では感染防止はできないと考えるべきだ。

 エイズは空気感染しないので、他の伝染病に比べて感染率が低い。この簡単な伝染病を人類が抑え込めずにいる最大の理由、それが人権問題だと思う。人権は人類を滅ぼす。

 エイズは致死率が高い上にまだまだ感染者が少ないので、差別されるのも当たり前。爆発的にまん延してフツーの病気になるまで差別は続く。

「最近、軽いエイズにかかっちゃって。」
「症状出ましたか。私なんか去年から斑点出てますよ。」

花粉症のようなノリである。ここまでいかないと差別はなくならない。


前のコラム 庵ホーム ほぼ世捨て人もくじ ページ先頭 次のコラム
Copyright(C) 2005. AZMA

inserted by FC2 system