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  ほぼ世捨て人/2001年8月

夏休み返上で働きたい

  〜 暑い時期に休暇はいらない 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 夏だ。今年はかなりの猛暑である。

 夏やせ、夏バテ、夏枯れ、夏負け、夏カゼ。夏にはあまりいい言葉がない。

 夏はそれほど好きな季節ではない。理由はたくさんある。

 第一にこのくそ暑さはなんだ。どこへ行っても何をしても暑い。北海道出身だからというわけではないが、高温多湿の内地の夏は好みではない。

 クーラーがないので日中の部屋の中は灼熱地獄だ。テーブルと言わずパソコンと言わず、すべてのモノが異常に熱くなる。この温度ではハードディスクの寿命を縮めてしまうので、晴れた日中はパソコンを使わないことにしている。その上に暑さで呆然自失、頭がまともに働かないから知的作業ができない。日記書きや情報整理、Webサイト執筆などがたまる一方だ。こういう作業に夏の日中は使いものにならない。

 家の中は暑いから、外に出て雑用でもしようか。草むしり、バイク掃除などがあるのだが、炎天下にそんなことをやっていては死んでしまう。

 公園に行って読書しようと思うが、ベンチはたいてい日向にあって5分と座っていられない。木陰のないベンチは夏場は利用できない。公園の設計者は気をつけてもらいたい。

 ならば、どこか遠出しようか。夏とくればアウトドアだ。サイクリング、バイクツーリング、登山。

 夏はやはりサイクリングだろうというわけで、梅雨が明けて夏休みに入る7月中旬から自転車に荷物を積んだ“にわか”サイクリストが急増する。一般にサイクリングは夏のレジャーと考えられている。

 しかし、夏は決してサイクリング向きの季節ではない。体力の消耗が激しく、思ったほど走行距離が伸びない。同じ距離を走っても夏場は非常に疲れる。大量の発汗で水分や塩分が不足、下手をすると熱射病や熱中症で倒れる危険もある。暑さと喉の渇きに悩まされ、疲労困ぱいして帰ってくるのがおちだ。

 サイクリングってこんなにつらい遊びなのかと、たった一度でこりてやめてしまう、そんなサイクリストが多いのではないか。

 ベテランは別として、初心者は夏場の長距離サイクリングを避けた方がよい。他の季節に出かけてみてほしい。関東や太平洋側を走るなら天候の安定する冬場に行くことをおすすめする。

 自転車がだめならバイクがあるさ。夏とくればバイクツーリングだ。

 しかし、二輪という乗り物はけっこう暑いのである。特にうちの原付はエアコンがついていないので、信号で停まるとむっとする。エンジンの熱、アスファルトの熱気、排気ガスの熱気…、炎天下のバイクツーリングはそれほど快適ではない。

 何よりも夏の風景はさえない。バイクで同じ峠道を走っても秋のような感動がない。桜、新緑、花、紅葉、雪といったポイントが欠けている。バカの一つ覚えのように緑一色の山。多彩な色、微妙なグラデーションなんてものがない。

 海は海で、海岸道路はクルマの大渋滞。のろのろ走っているとライダーまでオーバーヒートしてしまう。それに夏の海岸はバカ者が多くてこまる。湘南や江ノ島など殺気立っていて近づきたくない。人であふれた夏の海はボクの好みではない。季節外れの誰もいない海がいい。

 夏はやはり登山、夏山だ。高い山に登って涼もう。

 しかし、意外というか当然というか、夏の登山道はむし暑くてかなわない。虫が多いし、ヘビも出る。先日、富士山の五合目を歩いたら、登山道にやたらに毛虫がぶらさがっていてまいった。毛虫はボクの好みではない。標高2400メートルにしてこれである。登るなら3000メートル級の山にでも行くしかない。  つづき

 太陽がジリジリと照りつける夏。暴力的な日差し、よどんだ空気。夏は不快感、軽薄、能天気、衝動的、攻撃的といったイメージがあり、およそ深遠なる思考には向かない。秋のようなやさしさ、繊細さ、深み、情緒、もの悲しさといったものがまるでない。

 この時期は写真の方もさっぱりだ。何を撮ってもいい絵にならない。しばしばカメラを持って出かけるが、収穫は少なく、夏枯れ状態である。

 夏は撮影に向かない。青空が青いのは梅雨明けから10日間ぐらいまで。それ以降は青を通り越して白っぽくなってしまう。地平線までスカッと晴れることが少なく、どこかに雲がひっかかる。遠景はかすみ、鮮明な写真が撮れない。秋や冬のようなクリアな透明感がない。

緑一色の山

 日が長いのも困りものだ。夏の日中は太陽が上から照りつけるので被写体に微妙な陰影が出ない。

 夏に朝焼けを撮ろうとすると難事業である。この時期の朝焼けは5時には終わってしまうから、ちょっくら朝焼けを撮りに行こうと思うと4時前には家を出なければならない。いくら早起きのボクでもこれはおっくうだ。

 夕焼けを撮ろうとすると、この時期は6時半以降が本番。7時過ぎまで現地でねばることになるから、帰宅するのが夜中になってしまう。ボクは夜行性ではないので夜はなるべく家にいたいのである。

 その点、日の短い秋や冬の撮影は楽だ。一日で朝焼けと夕焼けの両方をものにすることも可能だ。

 できれば夏休みを返上して働きたいと思っている。家にいても暑いからだ。クーラーの効いた職場で働くのが一番の避暑になる。

 夏は遊びやレジャーに適さない。暑くて外にも出られない時期にわざわざ休みをもらって遊ぶ必要があるだろうか。

 現在の職場は平日を5日間も休みにし、前後の土・日をくっつけて9日間も夏休みをよこす。困るな、こんなことされちゃ。

 クーラーがなかった時代、真夏は暑くて仕事にならなかったから、この時期を休みにし、お盆やお祭りを置くのは意味があった。いまやどこの職場にもクーラーがあり、猛暑でも快適に仕事ができる。夏に仕事を休む合理的な理由はない。

 学校の夏休みも疑問だ。子供たちが真夏の太陽の下で元気に遊びまわる、これは非常に不健康である。日焼けが健康によいと言ったのは昔の迷信。紫外線に長時間さらされるのは危険であるというのが現在の常識だ。

 ボクとしては夏休みはいらないから秋休みがほしい。知性の働かない夏場は涼しい職場で時間をつぶし、心身ともに絶好調の秋こそ全力で遊びたいのである。

 秋はいいぞぉ。どこへ行っても何をしてもいい。また何もしなくてもいい。行楽の秋、読書の秋、食欲の秋、天高く馬肥ゆる秋。秋晴れ、秋の長雨(これはちがったか)。秋こそ長期休暇を取るにふさわしい季節である。

 さんざん夏に文句をつけてきたが、一昨日から夏休みに突入。やはり夏休みはいい。いくつになっても心ときめくものがある。予定満載、やりたいこと目白押し。一昨日は酒匂川(さかわがわ)の花火大会。明日は東京へ買い物に行くか。箱根の花火大会にも行きたいな。Webサイトにも手を入れないと。天気のいい日があれば富士登山も考えている。時間がいくらあっても足りない。

 夏休みを返上すると言ったのは取り消す。43歳の夏は二度と来ないのだ。


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