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  ほぼ世捨て人/2001年10月

ちがいのわからないグルメ

  〜 グルメ気取りが鼻につく 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 テレビ東京はなぜかグルメ番組が大好きである。うまい店、うまい食材、食べ歩き情報のオンパレード。外食にまったく興味のないボクは番組タイトルを見ただけでうんざりする。

 番組表から同局の秋の特番タイトルを拾ってみる。『熟女三人 食を極める 4泊5日!中国・ローカル列車の旅』、『旬の魚づくし・漁師が営むウマイ宿』、『秋一番!そこへ行かなきゃ味わえないトロより旨い絶品・地魚寿司の旅』…。

 これぐらいで驚いちゃいけない。この局は、クイズ番組であれ旅番組であれ、なんでも食い物に結びつけてやまない。

 タイトルを見ると旅番組なのだが中身は食べ歩き番組、というものが珍しくない。『今も残る日本の旅情・廃線の向こうの小さな旅』は廃線の旅を扱った番組かと思うと、キャプションには「幸福駅から行くシャケカニ鍋美味の宿…トウフ作り50年&旬の野菜料理…南部縦貫鉄道・おふくろの味…」とある。『日本列島・安くて豪華な旅 秋一番パックツアー』はパック旅行特集の番組かと思うと、「北海道秘境温泉めぐりカニ・イクラで大満足…焼津・特上すし食べ放題…五島列島の絶景&グルメ旅…」とくる。

 『愛の貧乏脱出大作戦』は、店の商売を立て直すドキュメント。登場する店はラーメン屋、カレー屋、弁当屋、居酒屋、パン屋…と食い物関係ばかりある。

 『出没!アド街ック天国』は街のローカルなおもしろスポットを紹介する番組。たいていは「激安激ウマ穴場」、「日本一うまい店&職人」など、街の紹介というよりうまい店の紹介である。どこまでも食いものから離れられない局である。

 『絶品!地球まるかじり』はグルメ情報に特化したという世にも珍しいクイズ番組。テレビ東京の面目躍如である。

 『TVチャンピオン』は、特定の趣味で達人同士が競い、その王座を決める番組。当初はいろいろな分野の競技が行われていたが、たちまちテレ東のサガが出て、大食いコンテスト、菓子職人、ラーメン王、板前対決など食いものに傾倒してつまらなくなった。ちなみに先週は「回転寿司職人 激ウマ早握り選手権」、先々週は「うまさ超特急!駅弁王選手権」、その前は「全国大食い選手権・スーパースター頂上決戦」、その前は「ボクのが一番おいしいよ!小学生料理名人選手権」…。

 えーい、いい加減にせんか! よくもまあこんなクズのような番組ばかり作れるもんだ。番組プロデューサによほど重症のグルメ病患者がそろっているらしい。それともグルメ番組は(テレビ東京にしては)視聴率が取れるからか。たかが食い物でこれだけの番組を作ってしまうとは、制作者の発想の貧困さ(いや、豊かさというべきか)は特筆に価する。

 グルメという言葉が浸透し、ボクの周りにグルメ気取りがいたのはサラリーマン時代だから、もう20年も前からグルメブームなのである。

 ボクはグルメに対して大いなる偏見をもっている。何がグルメだと常々思っている。気取ったソムリエがワインの能書きをたれているのを見るとウソつけと思う。ビートたけしがグルメ評論家の山本益博を批判したのは痛快だった。

 自転車で日本一周したとき、札幌のススキノでラーメンを食った。650円もしたのにまずくてがっかり。自分で作るラーメンの方がはるかにうまい。ススキノといえばラーメンの本場。ラーメン目当てに味のわからない観光客やグルメ、酔っぱらいが押し寄せ、まずくてもそこそこ商売になるから質が落ちるのだろう。名物にうまいものなし。ススキノはラーメンを食うところではなかった。ラーメンなら普通の市街地の名もないラーメン屋で食うべきだった。  つづき

 ボクの食事は経済性を重視して自炊が中心。ここ十年ぐらいは一度も外食などしたことがない。たかがメシを食うためにわざわざ電車に乗って出かけたり、店の前に並んで待つなんて発想は金輪際ない。長い行列のできる店ほど一層人気が集まるというから信じられない。並んで食うことが何か高級な行いだと勘違いしているのではないか。料理の善し悪しがわからないから行列の長さで判断するのだろう。行列を作ることをもう少し恥ずかしいと思ってもらいたいものだ。

 グルメブームは、つまるところ情報合戦ではないか。ちまたのグルメは食べることが主ではなく、食べることに関する情報を集める趣味である。テレビや雑誌の「うまい店」情報に振り回されて右往左往する。という表現が悪ければ、こう言い換えよう。グルメとは、テレビや雑誌で紹介された店に行ってみて、実際に食べて、記事の内容に相違がないか確認し、納得して帰ってくる趣味。あるいは、どこにどんなうまい店があるか、メニューや調理法、秘伝のタレなどの情報を集めて整理・ストックし、こだわり度を自慢する趣味。実際に味のちがいがわかるかどうかは問題ではないのだ。

 知識が増えれば、ちがいのわかる人間を気取りたくなるのは自然なこと。グルメはスノブに見えるが、どんな趣味でもそうなる。ボクだって自分の趣味に関しては相当スノブであり、偉そうな能書きばかり書いている。

 グルメが追い求める料理や食材には特に能書きが大切である。能書きは大仰で長ければ長いほどよい。日本テレビ『どっちの料理ショー』という料理対決番組があるが、まさに能書き合戦である。イタリアで3年間修行した一流レストランのシェフがなんとか産の高級食材を使い、丸一昼夜漬け込み、3日3晩煮込んでどうのこうの、という情報が大切なのである。

 一億総グルメ気取りだが、ちがいのわかる本当のグルメはほんの一部にすぎない。ボクが考える正しいグルメの条件。

(1)たばこを吸わない、大酒は飲まない

 喫煙家に味のわかる人間はいない。たばこや酒は味覚や嗅覚をだめにする。口の中がヤニだらけなのにタバコ臭くないというは味覚が麻痺している証拠である。

(2)一品料理をいくつか自分で作ることができる

 本当にうまいものが食いたかったら必ず自分で作るところに帰着する。梅宮辰夫などの例を持ち出すまでもなく、料理のできないグルメはいない。

(3)ゆっくり食べることができる

 10分で食事をする人間にグルメはいない。早メシ食いにとって食事とは食料を胃袋に放り込むだけの作業だ。それがどんな高級料理であっても、食事を味わい、楽しむという発想はない。食道楽は時間のかかる趣味である。じっくり食事を楽しむだけの精神的な豊かさがなければ食通とは言えない。

 早メシ、ファーストフードの本場はアメリカ。ハンバーガー、ホットドック、サンドイッチ、フライドチキン…。マクドナルドにケンタッキー。食事をとる時間がもったいない、なるべく短時間に食事をすませて仕事をする、それがアメリカ人の考え方である。こういう国に食文化は生まれない。中華料理、フランス料理、ロシア料理はあっても、アメリカ料理というのはない。

 アナタの周りにたばこを吸い、早メシ食いでグルメを気取るやつがいたら、「このニセモノ野郎め」と笑い飛ばしてやろう。


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