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  ほぼ世捨て人/2002年2月

職業選択の不自由(3)

  〜 ボクの職業遍歴、フリーター編 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 百姓をやるにしろ、まずは元手を作らなければならない。日本一周の旅から帰ってボクが選んだ仕事はアルバイトだった。ときに31歳。

 プリント基板検査、自動車組み立て、業務用プリンタ組み立て、ダイレクトメール仕分け、自動車部品製造…、目の前にある仕事は何でもやり、現在に至っている。

 なんで会社勤めではなくアルバイトなのか。こういう質問に答えるのはウンザリする。わかる人には説明しなくてもわかるはず、わからない人は会社勤めに不満のない人であり、そういう人にはいくら説明してもムダだと思うからだ。

 サラリーマンは気楽な稼業だが、ボクのようなマジメ人間(?)は人の倍ぐらいの仕事をまかされ、あらぬ責任を負わされるハメになる。出世したい人はそれで満足だろうが、出世は迷惑と考えるボクにはメリットがない。

 アルバイトはそういう期待をかけられないのがいい。会社のためではなくお金のために働くというスタンスが守れる。デクノボウと同じ賃金で出世ナシ、これがいいのである。

 組織に忠誠を誓ったり、会社を背負わされることがない。部下の尻を叩いたり、しがらみにがんじがらめになることもない。サラリーマンにはない精神的自由がある。

 代わりの人間はいくらでもいるから、辞めたければいつでも辞められる。その代わりいつクビになるかわからない。生活の保証はない。不自由な安定を取るか、自由な不安定を取るか。ボクは後者を取った。

 いい歳したおじさんがフルタイムで働いても年収わずか200万そこそこ。その辺のお茶汲みのOLより安い。しかも体力的にはかなりハード。会社勤めの方が遥かにトクではないかと思われる。しかし、心の平穏はお金には代えられないのである。

 ボクにとって仕事は生活の手段であって目的ではない。何時間拘束されていくらになるかだけ。仕事の内容はボク自身の価値や能力とは何の関係もない。だからどんなつまらない仕事でもできるし、プライドも傷つかない。会社や仕事には何も期待していないし、そんなものに人生を賭けようとは思わない。ボクがフリーターをやる理由はそんなところである。

 一般の人にとってSEはやりがいのある仕事であり、アルバイトはヤクザな仕事に見えるかもしれないが、ボクにとってはコンピュータも土方も同じ。どちらも手段に過ぎないのである。  つづき

 コンピュータができるのにアルバイトなんてもったいないという人がいるが、これは大きな勘違いだ。仕事選びで大切なことは「何ができるか」ではなく「何がやりたいか」だ。いくらできてもやりたくないことをやってはしょうがない。ボクにはやりたい仕事がない。ならば、より失うものの少ないアルバイトの方がいくらかマシに思えるのである。

 4年前、世間にインターネットという言葉が飛び交っていることに気づいた。それを使うと店舗なし、元手なしで通信販売ができるという。これだと思った。39歳のこと。

 1年ほどかけて資金を貯めてアルバイトを辞め、インターネットで通信販売をやる準備をした。うまくいけばアルバイトをしなくても生活できるかもしれない。

 41歳、自分で執筆したコラム集をネット上で販売するホームページを立ち上げた。それがこのサイト『世捨て人の庵』である。

 しかし、当時は訪問者が少なく、コラム集はひと月1、2本しか売れない。これでは食えないので通販は開店休業状態。今はもっぱら趣味のサイトとして運営している。

 現在は訪問者が当時の数倍になり、今同じことをやれば何倍も売れるだろう。それでも時給に換算すればアルバイトの方が効率がいいのである。

 わずかな額ではあるが、人を使わず人に使われずにお金を得る体験ができたのは貴重である。商売でわずか数千円稼ぐのも大変なことだ。一日中仕事のことを考え、下手をすると寝るまで働き、それでもお金になる保証はない。

 人に使われる仕事は収入がきっちり計算できるのがいい。朝働きに出れば、夜には確実に数千円のお金が約束される。しかも家に帰れば仕事のことはきれいさっぱり忘れることができる。SOHOを経験したおかげでアルバイトのメリットも再認識できた。

 現在のボクはアルバイトで食っている。一般サラリーマンの生涯収入は2億円というが、ボクの生涯収入予測はわずか4千万円。ビジネス社会から足を洗うことで1億6千万円ほど失ったことになる。ジャンボ宝くじ1等6千万円を3回フイにしたのと同じだが、悔いはない。

 他にやりたい仕事がない以上、アルバイトを続けるしかない。もう一度生まれ変わってもまたアルバイトをやるだろう。


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