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  ほぼ世捨て人/2002年3月

不公平税制の真実(1)

  〜 サルでもわかる所得税講座 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 大半のサラリーマンには関係のないことだが、毎年2月16日から一ヵ月間は確定申告の時期である。

 26歳でフリーのSEになってから確定申告しなければならなくなった。現在はSEもSOHOも辞めてフリーターの身分だが、しょっちゅう会社を変わるので、いまだに確定申告とは縁が切れない。

 フリーターの場合、給与所得者であり、必要経費の計算がいらないから楽なものだが、SEや自営業者の申告は一苦労である。読者の大半はサラリーマンだろうから確定申告がどれほど大変か知らない人も多いだろう。1年間に使った経費を洗いざらい計上し、領収書をかき集める。普段から整理の行き届いた人でも申告に丸一日つぶれる。準備を怠っていた人は2日、3日、あるいはそれ以上つぶれるだろう。わざわざ金を払って税理士に頼む人もいるくらいだ。しかも申告書提出のため平日を休むことになるから、有給休暇のないフリーランスは1日分収入が減る(最近は税務署も郵送による提出を勧めている)。確定申告に要する時間、労力、費用はバカにならない。

 日本人は年賀状を印刷するためにパソコンを買い、アメリカ人は確定申告するためにパソコンを買うと言われる。確定申告があったからWindowsが普及した!?

 SEになったとき、確定申告するために所得税のことを調べてみた。調べてびっくり。所得税法は大変な不公平税制だとわかった。サラリーマンと自営業者では扱いが全然ちがうのである。ただし、世間が言うように「サラリーマンが損している」というのはまったく逆だ。サラリーマンが優遇されているという意味で不公平なのである。

 このサイトではいろいろな常識のウソを指摘してきたが、サラリーマンの不公平税制は常識のウソの決定版と言ってよい。所得税法は制度として明文化されているのだが、これほど誤解されている事実も珍しいので、以前から書こうと思っていたテーマだ。

 ただ、不公平の話をする前に、所得税の基本的な部分を解説しようと思う。予備知識のないサラリーマンにいきなり不公平税制の説明をしても馬の耳に念仏、全然話にならないからだ。

 サラリーマンに関係のある部分だけに絞り、子細な部分は一切省略。社会人として知っておくべき基礎知識だ。内容は中学生レベル。自分で確定申告できるというレベルの人は読む必要なし、次のページへ進んでほしい。

 サラリーマンが会社からもらう給料を税法上、給与所得と呼ぶ。フリーターの給料も普通はこれだ。それに対して商店主、農家、漁師、医者、弁護士、画家、作家、翻訳家、生命保険勧誘員などの自営業者のことを税法上、事業主と呼び、その収入を事業所得という。実に仰々しい名前だが、ボクがやったSEも事業主であり、ネットでコラムを通信販売するSOHOも事業主である。

 所得税は次のように算出される。下図の一番外側の四角を1年間の収入とする。商店主なら総売り上げ、サラリーマンなら額面の年収(支給される通勤交通費は除く)にあたる。

所得税算出のしくみ

 この収入にそのまま税金がかかるわけではない。ここから収入を得るのにかかった経費を差し引く。この経費(黄部分)のことを自営業者の場合、一般に必要経費と呼んでいる。商店主なら商品の仕入れにかかった売上原価や光熱費、広告宣伝費、接待交際費などもこれに当たる。  つづき

 サラリーマンには必要経費が認められていないと思っている人がいるが、サラリーマン(給与所得者)にもこの部分がちゃんとある。ただし必要経費とは呼ばない。給与所得控除と呼ぶ。名前はちがうが同じものである。

 収入から経費を引いた部分を所得金額という(図の青+赤)。いわば実質所得、純利益である。これにそのまま税金がかかるわけではない。免税される支払いなどがあれば所得金額から差し引かれる。差し引くことを税制では控除という。所得から差し引く項目を所得控除という。

具体的には国民健康保険や厚生年金などの掛け金、生命保険の掛け金、基礎控除(一律38万円)、妻がいる人は配偶者控除(最高76万円)、医療費が10万円を越えたら医療費控除…などが所得控除になる。

 所得金額から各種の所得控除を引いた残りの部分に税金がかかるのである。図の赤の部分に対して税率を掛けた額が支払うべき所得税となる(最近は減税のため所得税は20%減額される。これを定率減税という)。ただし、税率は一定ではなく、赤の部分の額によって変わる。普通のサラリーマン(年収300〜700万円)で10〜13%ぐらいか。稼ぎが多くなるほど税率は高くなり、年収1億の人は概算で三十数%になる。累進課税である。

 以前は最高税率が70%近かったのだが、最近は累進課税も随分緩和されてしまった。一流スポーツ選手、有名芸能人などの高額所得者は何千万円も減税になったはずだが、そういう話はなぜかマスコミではほとんど報道されない。

 以上のしくみは自営業者もサラリーマンも同じである。当然ながら収入金額が同じでも経費や所得控除が多い人ほど支払う税金は少なくてすむわけだ。図の赤の部分をいかに少なくするかが節税の最終目標である。

 日本のサラリーマンの所得税は給料から天引きで収めるのが特徴。元から取るという意味でこれを源泉徴収と言う。ただし、毎月差し引かれる税額はあくまでも予想額であり、最終的な納税額は前述のように年収が決まらなければわからない。年末の給料支給のとき1年間の収入から生命保険料などを控除して税額を決定、前月までに支払った税金を精算し、払い過ぎていれば戻ってくる。これが年末調整だ。

 会社が発行する源泉徴収票は、「1年間でこれだけの税金を給料から差し引いて払っときました」という証明書である。

 以上は税制の基本中の基本、ABCのAである。今回はためになったろ。レベルが低過ぎる、バカにするなって? そう言わないでほしい。この程度のことでも知らないサラリーマンが大勢いるのだから。ボクも普通のサラリーマンを続けていたらそうなっていたかもしれない。

 給与所得者の納税は、税金の計算から支払いまで会社の経理がすべてタダでやってくれるので手間要らず。源泉徴収は会社員にとってはありがた〜い制度なのである。一度でも確定申告したことのある人はそのありがた味が身にしみるはずだ。

 その反面、自分で税額を計算する必要がないので税制に無知になる。自分で払わないから税金がどう使われても腹が立たない。政府は源泉徴収システムによって税金の無駄遣いに無関心な国民を作り上げることに成功した。この制度を考えた政治家の洞察力はすばらしい。

<続く>

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