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  ほぼ世捨て人/2002年3月

不公平税制の真実(2)

  〜 サラリーマンを優遇する税制 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 給与所得者と事業主は所得税の扱いに大きな差別がある。そのカラクリはどこにあるか。もう一度、前ページの図を見る。

所得税算出のしくみ

 問題は上図の黄色、経費の部分である。サラリーマン(給与所得者)にもこの経費が認められており、これを給与所得控除と呼ぶことは前のページで述べた。

 給与所得者の特徴は、この給与所得控除がなんと年収の約3分の1も無条件に認められているという点にある。 概算すると、年収500万円で給与所得控除が154万円(31%)、年収400万円で134万円(34%)、年収300万円で108万円(36%)も経費として控除されているのである。こんなバカな話はない。

 サラリーマンがそんなに経費を使うはずがない。ウソだと思う人は仕事にまつわる書籍代、スーツ、ネクタイ、カバン、靴、交際費などすべて足してみよ(*)。年収400万円、手取り月給20万ちょっとのサラリーマンが年間134万円、ひと月11万円強(!)も経費に使う、そんな浪費家がどこにいるのか。

(注*) 実際はスーツや靴などの衣料費は経費としては認められないらしい。

 会社員は通勤定期、文房具、電話代、出張旅費、すべて会社持ち。パソコン、ファックス、コピー機、机、本棚…、必要な設備は全部会社に揃っている。背広とネクタイがあればできるのがサラリーマン。もっとも経費のかからない職業である。そのサラリーマンに対し、使ってもいない経費を収入の3分の1も、無条件に全員もれなく控除している。とんでもないでたらめな制度である。

 自営業者はもっと必要経費が認められているだろって? 自営業は経費のかかる商売だから、確かに正しく申告すれば必要経費は4割でも5割でも認められる(ことがある)。ただし、あくまで実際にかかった経費しか申告できないし、自己申告しない限り1円たりとも認められないのである。だから必死になって領収書をかき集める。

 ボクもSE時代は必死に必要経費を計上した。SEの仕事内容はサラリーマンとほぼ同じであり、事業主の中でも比較的経費の少ない仕事である。それでも通勤交通費、通信代、文房具、ワープロ、フロッピィ、すべて自費で払っている。書籍代、衣料費、交際費、考えつく限りすべて経費に計上した。それで収入の3分の1になったか? なりませんよ。せいぜい15%がいいところだ。その結果、サラリーマン時代より多くの経費を使っているにもかかわらず、同じ収入でも大幅増税になるのである。

 「オレは収入の3分の1以上の経費を使ってるぞ」と言い張る人は、サラリーマンであっても特別に経費を申告することができる(特定支出控除)。が、実際に税務署に認められるケースは少ないようだ。当然である。年収の3分の1以上も経費のかかるサラリーマンなんて千人に一人もいないだろう。

 ボクの推測では、普通の会社員が使う経費は平均して収入の10%以下ではなかろうか。それが前述のように年収400万円のサラリーマンで34%も控除されている。実際にかかった経費を10%とすると、その差は24%、96万円。これが図の赤の部分から控除されるわけだから、税額の差は(税率10%として)96万円×10%=96,000円。定率減税分を引いても年間8万円近く得をしているのだ。

 所得税上、サラリーマンほど恵まれた職業はない!

 現在の所得税法はサラリーマン優遇の不公平税制であり、憲法違反である。

 サラリーマンに無条件に必要経費を3割も認めるなら、自営業者にも無条件で3割認めるべきだ。自営業者に帳簿をつけさせ、必要経費を計上させるなら、サラリーマンにも帳簿を提出させ、必要経費を申告させるべきだ。  つづき

 源泉徴収制度を廃止し、サラリーマンもアメリカと同じように自己申告制にすべきだと思う。そうなればサラリーマンの必要経費(給与所得控除)は収入の3分の1から10%にダウン、日本全体としては大幅な税収増になることは明らかだ。国の債務も急ピッチで返済できる。

 なぜこんな不公平がまかり通るのか。自営業者は税金をごまかしているという認識が浸透しているからだ。ニュースを見ても脱税で摘発されるのは自営業者ばかりだ。サラリーマンは給与天引きだからごまかす余地はほとんどない(ゼロではないが)。「あいつら(自営業者)はどうせ税金をごまかしているんだから、オレたちの税金をもっと安くしろ」。

 確かに税金をごまかしている割合は自営業者の方が多いのは事実だろう。収入が捕捉しにくいのがその一因である。俗に言うトウゴウサンピン(収入の捕捉率がサラリーマン10割、自営業者5、農家3、政治家1という意味)、クロヨン(サラリーマン9、自営業者6、農家4)などというウワサが一人歩きしている。税務署はこれを俗説として否定しているのだが、無知な大衆はウソだと言って聞かないのである。

 マスコミは自営業者が得をし、サラリーマンが損をしているように報道する。サラリーマンの味方をするのがマスコミの仕事だし、マスコミ関係者も大半はサラリーマンだから税制を知らない。政治家は選挙演説で「サラリーマンのみなさんは損をしている。税制を改正しましょう」とやって票を集める。サラリーマンの被害者意識にますます拍車がかかる。

 サラリーマンが損していると誤解する最大の原因は、源泉徴収のせいで所得税のことをまったく知らないことにある。自分がいくら税金を払っているかすら知らない。経費が3割以上も認められているのに、「我々サラリーマンにも必要経費を認めよ」などと無知蒙昧なことを言う。こと税金に関する限り、サラリーマンと話すのは小学生と話すのと同じである。何も知らない割にはマスコミの受け売りを信じ、自営業者は得をしていると声高に話す。これが大衆というものだ。

 さらに事態を悪くしているのが自営業者の青色申告制度だ(普通の申告と区別して青い申告書を使うことからこう呼ぶ)。これは、事業主が詳しい帳簿をつけて税務署に提出し、経営内容をガラス張りにすれば減税措置が受けられるというもの。といっても主な特典は、所得から最高55万円控除される(必要経費分が55万円増えると考えてよい)ぐらいで、大したメリットではない。

 ただし、これが適用されるには複式簿記で帳簿をつけ、さらに「貸借対照表を損益計算書とともに添付し…」と非常にめんどくさい。そこまでやりたくない普通の事業主は通常の白色申告をするから特典は受けられない。自営業者の扱いも二重構造になっているのである。

 つまりこういうことだ。サラリーマンと青色申告者は正しく申告し、納税しているから税金をオマケしてあげましょう。白色申告者は税金をごまかしていることを前提にしているわけだ。正直者が損をする税制なのである。

 ボク自身は申告をごまかしたことはない(まちがえたことはある)が、これほど不公平だとバカバカしくてごまかさなきゃヤッテランナイという気持ちになるのは確かだ。ごまかすことを前提に税制が成り立っているのだから。ごまかさにゃ損々だ。

 脱サラしてフリーで何か始めようという人は所得税で苦労することは断言してよい。思いっきり税金をごまかすつもりなら自営業者の方が得だが、1円たりともごまかすつもりがないのなら自営業者は圧倒的に損だ。

 SEもSOHOも辞めて再び給与所得者になったボクだが、正直言ってほっとしている。

 サラリーマンは税金をごまかせないから損、と考えるのはまちがい。ごまかす必要がないくらい優遇されているのだということ。これは正しい常識としておぼえておいてほしい。ほとんど語られることのない真実である。


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