今まで黙っていたが、ボクは日本虚礼廃止協会(NKK)の専務理事を勤めている。当協会は最近ボクが設立したもので、資本金ゼロ、会員は現在ボク一人。
協会は、諸悪の根元である虚礼を拒否、断罪し、廃止することを目的とする。
群れを作るのは嫌いなので会員は特に募集していない。賛同する方はめいめい勝手に活動してほしい。
かつて塩月なにがし著『冠婚葬祭入門』なる本が大ベストセラーになったという。ボクに言わせれば、これほどの悪書はない。
祝儀袋の水引きは何にするか、葬式にいくら香典を包むか。冠婚葬祭でわからない慣習に出くわしたら、こういう本を開けばたちどころに答えがわかる。これがいけない。
細かいしきたりやマナーがわからなくなるということは、それが必要ないからである。放っておけば親から子に伝わらず、やがて忘れられ、廃れる運命にある。それを本に残すから悪習がいつまでも残り、未来永劫くだらないしきたりに縛られることになる。これぞ社会悪、百害あって一利なし。
冠婚葬祭にはどんなしきたりがあるのか。わが家にも冠婚葬祭本が一冊あるので(なんだ、あるのか!)、ちょっと開いてみる。前掲書とは異なる本だ。
葬儀や告別式の席次、焼香の順番はうるさい。性別、本家・分家の区別、親等・長幼などによって事細かく順位が決まっている(そんなこと、どうだっていいじゃないか)。弔事(ちょうじ)の忌み言葉というのがある。重ねる、もう一度、再び、再度、追って…といった言葉は不幸が重なることを意味するので避けよという(くだらん)。香典の金額は四千円、六千円といった偶数をだめという(だれが決めたんだ、そんなこと)。香典の表書きは宗門によって「御仏前」「御香料」「御香典」などと書き分けるという(オウム真理教はどう書きゃいいの?)。このように葬式のしきたりだけでもすさまじい量であり、とても書き切れない。
結婚式の忌み言葉も多い。切る、去る、割れる、離れる、終わる、返す、帰る、出る、枯れる、冷える、重ねる、閉じる、退く…などは破綻を意味するので使うなとさ(何もしゃべるなってことか)。
その他、通夜、法要、結納、七五三、長寿の祝い、節分、彼岸…と、この本はくだらない情報の宝庫だ。眺めているだけで腹が立ってくるので、ここらで本を閉じる。
各国の葬儀費用の平均は、アメリカ45万円、イギリス12万円、ドイツ30万円、韓国37万円。これに対して日本は首都圏で405万円、全国平均287万円とケタ違いである。<日テレ『特命リサーチ200X』より>
参列者は死んだ者に思いを馳せるのではなく、何を着ていくか、香典にいくら包むかなどに気を使う。葬式を出す方はもっと大変で、死ぬほどたくさんのしきたりを守らねばならない。遺族は儀式の仕切りや参列者の応対に追われ、悲しみに暮れる暇もない。
しかも読経だ、戒名だ、墓地だ、法要だと、クソ坊主の言いなりになって多額の金を払う。そんな金があったら故人が生きているうちに使ってやれ。
日本の葬式は心を失った儀式である。こんなものには絶対に出席したくない。また自分の葬式もやらせたくない。遺言には「葬式を行った者は呪い殺す」と書いておくつもりだ。
葬式には出たことがないが、結婚式には一度出席したことがある。姉の結婚式なので、弟のボクが出ないわけにいかなかった。が、あまりのくだらなさに呆然とし、もう二度と結婚式には出ないと誓った。
結婚式ほど他人に迷惑をかける行為はない。多額の御祝儀を集めてぜいたくな挙式。だれが他人の幸せなど本気で祝福するものか。
テレビの情報番組で、キャスターがいちいちレポータやゲストに「おはようございます」、「よろしくお願いします」、「ありがとうございました」と言うのが耳障りである。挨拶は視聴者に聞かせるようなことではない。本番前にスタッフ同士で済ませておけ。
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ラジオでは、交通情報を伝えるたびにこんなやりとりになる。
ここで交通情報をお伝えします。道路交通情報センターのAZMAさん、おはようございます。
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おはようございます。
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よろしくお願いします。
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はい。お伝えします。
<交通情報>
以上、道路交通情報センターのAZMAがお伝えしました。
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はい、ありがとうございました。
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赤字の部分は全て不要。センターの担当者の名前も視聴者には不要な情報である。それにしても「(日本)道路交通情報センター」という冗長な名前はなんとかならないか。
書籍にも虚礼がはびこっている。本のあとがきに余計なことを書く著者が多い。
「本書の執筆に当たっては、編集部の○○さんに大変お世話になりました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。」
だれがこの場を貸すと言った? 編集者へのお礼をなぜ読者が読まにゃならんのか。礼なら本人に直接電話で言ってくれ。
日本人は世界一挨拶好きな国民である。挨拶できないやつはだめだと公言するバカな大人もたくさんいる。英会話を習うときも練習するのは挨拶ばかり、そこから先に進まない。
しかも日本人の挨拶はセリフが決まっている。How are you? と聞かれると、判で押したようにこう答えるのである。
I'm fine, thank you. And you?
この英文は在日外国人が耳にタコができるほど聞かされるフレーズとして悪名高いものだ。親しい友達が「よう、調子どう?」と聞いても、日本人は「おかげさまで気分は良好です。あなたはいかがですか。」とくる。熱があってふらふらでも I'm fine と答えるからおかしい。そして最後に必ず And you? と相手の調子を尋ねる(欧米人は普通言わない)。尋ねないと失礼にあたると学校で教えられるからだ。典型的な“バカの一つ覚え”である。
じゃ How are you? に何と答えればいいかって? そういう質問がそもそもまちがいなのだ。その日の状況によって答えは違うのだから。とにかく上の英文はやめてほしい。面倒なら Just great. (バッチシ)とでも言っておこう。
日本人が異常に礼儀正しいことは海外でも知られている。アメリカのコメディドラマを見ていたら、主人公が日本人ビジネスマンと別れの挨拶を交わす場面があった。主人公は日本人の習慣に合わせ、相手がお礼を言うとこちらも言う。何度もお礼を言い合った挙げ句、ついに主人公は根負けして、OK, I give up. (わかった、僕の負けだ。)と言う。日本人の虚礼を揶揄した場面である。
手紙や案内状には日本独特の“時候の挨拶”なるものが存在する。ビジネス文書でさえ、用件だけ書けばいいものを呪文のような挨拶から入る。「菊薫るこの頃、貴社ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。」
うちのワープロ専用機の文例を見たら、月ごとに決まった挨拶が存在することを発見した。1月は「寒に入ってひとしお寒さが厳しくなりました」など9パターン。2月は「梅のつぼみもようやく膨らみ始めました」など8パターン。これらが12カ月分揃っているのだ。
こんなたわ言を文化と呼ぶらしい。電子メールがこの悪弊を切り崩しつつあるのは救いである。
その他、お中元・お歳暮。上司・先生・医者への付け届け。接待。年賀状、挨拶状。バレンタインデー。節句。お祭り。お年玉…。
合理主義者で無神論者のボクには息の詰まる国である。
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