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  ほぼ世捨て人/2003年4月

平和のための基礎講座

  〜 反戦平和のあやまりを正す 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 イラク戦争がどうやら終結したらしい。

 世論の動向を見るにつけ、戦争と平和の基本を説く必要性を痛感。やさしい基礎講座を開講する。

 ついおろかな大衆を罵倒したくなるところをぐっとこらえて、やさしい先生に徹しよう。レベルは小中学生向け。および小中学生並みの脳ミソを持つ大人を対象とする。

Q. 軍隊ってほんとに必要なの?

 軍事力を持つことで余計な戦争を回避できる場合が意外に多いんだ。これを抑止力っていうんだけど。

 回りの国が兵器を持ったら、こちらも同じぐらいの兵器や軍備を持つと釣り合いが取れて戦争が起こりにくいという考え方がある。難しい言葉で「balance of power」っていうんだけど。欧米の外交はこの考え方が根底にある。米ソの冷戦がいい例だね。

 やみくもに軍備を縮小、核兵器を禁止すればいいってわけじゃないんだ。うまくバランスを取りながら軍縮をしないとかえって危険なこともある。

 朝鮮半島を見てごらん。韓国と北朝鮮、このままじゃ軍事力のバランスが悪くて危ない気がするよね。でも韓国に米軍が駐留することでバランスが取れているんだ。

 武器も軍隊も少ない弱そうな国も、実は強い国とお友達になることで守ってもらっているんだ。無防備なのに平和でいられる国なんてどこにもないのさ。

 日本は戦後60年、大した軍備も持たずに平和でいられたけど、それは米軍という世界一強力な軍隊とその核兵器に守られていたからさ。

Q. 日本もスイスみたいに永世中立国になれば?

 永世中立国とは、他国を侵略しない、他国の戦争にも参加しないと宣言して認められた国のこと。それは同時に他国と同盟して助けてもらうことができないことも意味するんだ。

 たとえば、スイスは国民皆兵で、とても強い軍事力を持っている。ほとんどの家が核シェルターを備えた軍事国家なんだ。過去に隣の国と何度も交戦してやっと平和を守っている。永世中立国だから軍備も持たずに平和でいられるなんて思ったら大まちがいだよ。

 他国と同盟できないので軍事的に孤立しているというのが永世中立国の実態だ。だから人一倍強力な軍備が必要なんだ。

 うちは平和国家です、よその国を侵略しませんから攻撃しないでください。そんな無邪気ないい分は国際社会じゃ通用しないんだ。

 平和は空から降ってくるものじゃない。犠牲を払って守り抜かなきゃだめなんだ。

Q. 日本はアメリカの言いなりでいいの?

 キミはなかなかいいこと言うじゃないか。でもその意味が本当にわかってるかい?

 アメリカに頼らないとは、紛争が起こったら自力で敵と戦うということだ。そのためには憲法を改正してしっかり自衛できる国にならなければいけない。

 国力に見合った軍隊を持つことは必須条件だ。「自衛隊」なんてシブガキ隊みたいな名前はやめて、正しく日本軍と改称しなきゃだめだよ。

 分相応の兵器もたくさん必要になる。アメリカの核に頼れないなら、核兵器や生物兵器も必要になるかもしれない。

 日本がそこまでやる覚悟があるなら、アメリカに従う必要はないかもしれないね。

Q. いい戦争ってあるの?

 宇多田ヒカルがホームページで「いい戦争なんてない」と書いている。その裏には、どんな戦争も悲惨なことに変わりはないという意味がある。

 でも、キミだって警察の武力と暴力団の武力、善し悪しを区別できるだろう?

 国際社会だって同じことさ。いい戦争、悪い戦争の区別はちゃんとある。ただ国内とちがうところは、だれが警察なのかはっきりしないってこと。

 特に今回のイラク攻撃は、いい戦争なのか悪い戦争なのかわかりにくかったよね。これは複雑な問題だからここでは説明しないけど。  つづき

 一つだけ言えるのは、独裁者のフセインや朝鮮半島のキムおじさんは説得してもムダなんだ。こういう人がいるとみんなが迷惑する。だから相当の犠牲を払っても取り除かないといけないんだ。

「そのために罪のないイラク国民を犠牲にしていいの?」

 確かにイラク国民に罪はないかもしれないけど、でも責任はあるだろ? 独裁政権を許した責任はその国民がとるしかないんだ。だから自分の国のかじ取りはしっかりやらなきゃいけないわけだ。

Q. 罪のない子供を犠牲にしていいの?

 アメリカのイラク攻撃でも子供たちがたくさん犠牲になった。子供には何の罪も責任もないよね。それでもアメリカが正しいって言えるのかな。

 でもよく考えてごらん。子供の命を犠牲にした責任は誰にあると思う? 結論を言うとね、責任はその親にあるんだ。つまりイラクの大人たちがフセイン政権を支えてきたから戦争になり、子供が犠牲になったわけだ。

 子供の命を奪ったのは米軍の空爆だけど、その責任は子供の親にある。ちょっと哲学的になったけど、わかるかな。

 第二次大戦では日本の子供たちも米軍の空襲でたくさん死んだ。これは日本の親たちが侵略戦争に走ったことに責任がある。それをアメリカのせいにするのはまちがいだってことはわかるだろ?

 子供を守りたいなら投降するとか疎開させるとか、方法はいろいろあるはずだ。子供を犠牲にするな、これはイラク国民に向かって言うべき言葉さ。

 「米軍は罪のない子供を犠牲にしている。だからアメリカが悪い。」 これは問題を巧妙にすり替えているのさ。これで世界中の世論がだまされた。

 子供が犠牲になったからといって、正義の味方と悪人を取りちがえちゃいけないよ。これは大事なことだ。

 たとえ子供が犠牲になってもやらなきゃならないことがある。もしやらなければどうなる? 目の前の子供は死なずにすむかもしれないけど、別の国でもっとたくさんの子供が死ぬかもしれないよ。目の前のことだけ見てちゃだめなんだ。

Q. 人はなぜおろかな戦争をするの?

 これは一番大切な問いだね。でもスペースがないので今回は説明しない。一言だけ言うと、太古の昔から戦って生き残ってきたのがボクら人間だってこと。だから人は本能的に戦争や人殺しが好きなんだ。

 平和なときでもスポーツをして常に誰かと闘っていないと気がすまない。スポーツと戦争は同じものだ。スポーツ観戦に熱中している人は、頭の中で架空の戦争に参加しているわけだ。

Q. もっと反戦運動を盛り上げれば?

「みんながもっと反戦運動に参加すれば世界は平和になると思うんだけど、AZMAおじさんはどう思いますか?」

 あのね、おじさんじゃなくてお兄さんだよ。戦争反対、軍拡反対、核兵器反対。一見もっともらしいけど、おとぎ話の理想論を言ってるだけだよ。戦争をしない、軍備を持たない、核兵器を持たない。それでどうやって国民の安全を守るんだい? 平和主義者ならこの質問に答えなければいけない。でも彼らは何も答えてないだろ?

 反戦デモの人たちが平和でいられるのも核や軍事力によって守られているからなんだ。皮肉な話だね。平和を守っているのは反戦運動でもイデオロギーでもない。兵器や軍事力なんだ。そこに反戦平和の救いようのない矛盾がある。

 しかも反戦運動は、悪い国が軍事攻撃をのがれるためにうまく利用されているということも認識しなくちゃいけない。間接的に悪い国を支援しているのと同じことなんだ。

 反戦デモをやるなら、少なくともここで説明した平和の基本ぐらいは知った上でやるべきだね。


反戦デモ−AZMAの辞典

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