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  ほぼ世捨て人/2003年6月

1億総中流の妄想

  〜 9割中流はなぜおかしい? 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 日本人の9割は自分を中流だと思っている。

 メディアで耳にタコができるほど聞く話だ。もちろんそんなに中流が多いはずがないという含みも言外にある。

 しかし、「9割が中流」のどこがおかしいのかとなると、具体的に言及した話を聞いたことがない。なぜおかしいのか、大衆の大半はよくわかってないのではないか。

 中流とは何か。中流の明確な定義や基準はない。人によって解釈は異なる。以下はボクの解釈だ。

 「中流」とは中流階級の略である。上流階級、中流階級、下層階級のうちの真ん中の階級。

 ボクが持っている中流階級のイメージは、
   ・寝室が3つぐらいある
   ・広い芝生の庭があり、芝刈り機がある
   ・庭にプールがある
   ・使用人がいる
といったものである。

 日本の特殊事情を考えれば、広い芝生やプールは無理としても、少なくとも木造アパートや団地に住む中流階級などありえないことだ。

 職業でいえば、ヒラ社員の中流というのは考えにくい。ヒラ社員は労働者階級である。中流はブルジョア階級と考えたい。具体的にいうと、管理職、会社役員、経営者、実業家、開業医、…といったクラスが中流と目される。

 以上がボクの中流の認識だ。少なくとも日本人の中流意識よりは世界の常識に近いと思う。

 ちなみに上流階級はといえば、これはもう想像がつかない。一生遊んで暮らせるだけの資産がある。家柄や品格がまるでちがう。大豪邸、社交界、ロールスロイスといった世界だ。

 貧富の人口構成比というものは世界普遍のパターン、ピラミッド型になるのが普通である。ほんの一握りの金持ちを大多数の貧乏人が支えるという形だ。上流、中流、下層が3分の1ずつ同じ比率になるわけでは決してない。まして中流が90%もいたら社会は成り立たない。

 普通の国では上流階級は1%以下、中流階級は10%というところではないかと想像する。

 日本のような大衆社会では上流はさらに少ないはずで、0.1%ぐらいか。そして下層階級の生活レベルが高いのが特徴だが、比率はそれほど大きく変わらないと思う。以上から推定すると、日本人の90%近くは下層階級、というのが妥当な線ではないか。

 庶民の生活を見よ。年収の10倍もする小さな小さな家を30年ローンで購入。満員電車で片道1時間以上の通勤。家族と一緒に夕食も取れない。果物や農産物は異常に高価で(不当な輸入規制のせいだ)、牛肉なんかたまにしか食えない。  つづき

 一日10時間も働いた結果がこれである。それでも自分が中流だと思う感覚がわからない。

 9割が中流意識を持つとは、乱暴にいえば9割がいまの生活に満足しているということだろう。そうでなければ政治の一党支配がこうも長く続くはずがない。

 施政者としてはこれほど御しやすい国民はいない。諸外国のリーダーはいかに国民に「いまの生活は恵まれている」と勘違いさせるかに心血を注いでいるのだから。

 1億総中流、この壮大な勘違いの原因は階級が消滅したことにあるのだろう。

 欧米は自由・平等の先進国だが、貧富の差は大きい。身分の差が歴然と支配している。上流階級が下層階級と同じ場所でメシを食うことはない。

 日本は華族制度の廃止や累進課税のおかげで貴族階級が消滅。貧富の差の少ない大衆社会が簡単に実現してしまった。“金持ちではないが貧乏でもない”というレベルで横一線に並んだ。そのため階級意識が極めて希薄である。

 貴族しかやらないハデな結婚式を庶民がやる。貴族のスポーツ、ゴルフに庶民が手を出す。ゴルフバッグをかついで電車に乗る人。食うや食わずでベンツやポルシェを乗り回す人。

 為替レートのいたずらで成り金にのし上がった日本人。庶民が海外旅行に出かけ、シャネル、エルメス、グッチを買い漁る。

 ブランド品とは、海外ではしかるべき収入や社会的地位、風格を備えた階層だけが買うもの。庶民はたとえ買えても買わない。身分がちがうのだから。それがステータスシンボルの意味だ。日本では小娘がヴィトンのバッグを持って街を闊歩し、木造アパートに帰る。これをだれもこっけいとは思わない。

 自分が所属する階級をこれほどまちがえる国民は少ない。階級意識がないから中流の意味がわからなくなったのである。平等な大衆社会になった証し。たぶん喜ぶべきことなのだろう。

 自分を中流だと思うのは本人の自由。あえて「アンタら下層階級なんだぞ」と説くのは余計なお節介というもの。でもなぜか言わずにいられないボク。

 最後にもう一言言わせてほしい。この大バカヤロウ。


中流−AZMAの辞典

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