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  ほぼ世捨て人/2003年7月

現代アルバイト考

  〜 フリーターは日本経済を救う 〜

ほぼ世捨て人もくじ


● 元祖フリーター

 サラリーマンやるほどバカでなし。といって事業を起こすほどの才もない。仕方なくフリーターをやっている。

 大学時代からアルバイトに明け暮れていた。『俺たちの旅』の世界である。授業の合間に、というよりアルバイトの合間に授業に出るという生活。バイト2つ掛け持ちという日もあった。ほとんど職業化していたといっていい。

 こういう身分をなんというのか適当な名前がなかった。人に説明するには、「時間に縛られる定職は避けて、好きな時間だけできるアルバイトを見つけて収入を得る生活…」と厄介な解説が必要だった。今なら一言「フリーター」ですむ。便利なコトバができたものだ。

 バイト歴の豊富さでは人後に落ちない。そんじょそこらのにわかフリーターとはちがうのだ。…などと書くと自慢モードに聞こえるが、フリーターなんぞにはなんのプライドも持っていない。人に使われる職業の中でも最低だと思っている。

 安い給料でこき使われ、ボーナスも保証もない。社会的信用ゼロ。クレジットカードが持てない、ローンが組めない、借金できない、結婚できない。どれもボクには必要ないから続けてこられた。

 いまや若者の間にフリーターという選択肢が市民権を得た。どこの職場でもアルバイト仲間の大半は20代だ。ボクと彼らは同じ身分であり、お仲間ということになる。しかし、共感は感じない。人生に共通点がほとんどないからだ。

 彼らは単に会社勤めが遅れているだけ。たまたま今はアルバイトをやっているに過ぎない。いずれは現実に直面し、夢やぶれ、会社勤めを選ぶことになる(本人はそう思っていなくても)。

 男の場合、結婚を機にフリーターを辞めるという話もよく聞く。“寿退社”である。定職のないヨタ者に娘はやれないと反対されるからだ。

 若いうちはアルバイトでも社員でも収入に大差はないが、中年ともなれば同年代の会社員と何倍もの開きが出てくる。自分より10歳も20歳も若い社員にアゴで使われるようになる。そういう現実にフツーの人は耐えられるものではない。

 彼らの中で40代までフリーターを続けるのは10人に1人もいないだろう。就職面接に合格して辞めていく若いフリーターをたくさん見てきた。自由な方向に流れているように見えるフリーターも、結局は会社勤めという名の排水溝に向かって流れているのである。

 『俺たちの旅』を気取るのも若いうちだけ。いずれは収まるところに収まる。ボクのような世捨て人とはちがうのだから。

 そういうフツーのフリーターと区別するために、ボクのプロフィールには「職業フリーター」と書いている。

● 誤解と偏見の中で

 フリーターを弁護しようなんて気はさらさらないが、世間のフリーターに対するイメージはひどいものだ。定職につかずぶらぶらしている。腰掛け。社会のお荷物。

 アルバイトなんて仕事じゃない、責任感の点で正社員とは比較にならないと考える人も多い。アルバイトだから仕事ぶりはいい加減に決まっているという先入観である。これはある意味では当たっているが、ある意味では偏見である。

 都合のいい時間に必要なだけ働くのがアルバイト。社員とアルバイトは労働形態の違いであり、優劣のちがいではない。  つづき

 責任感は個々人の資質の問題。大半のフリーターはまじめだが、中にはゴミもいる。これはサラリーマンも同じだ。

 ただし、社員と待遇がちがえば、おのずと責任の範囲もちがってくる。社員の半分以下の給料で社員と同じ成果を求めるのは虫がよすぎるというものだ。

 昔、なぎらけんいち(当時仮名表記)の「悲惨な戦い」という曲があった。大相撲の対戦中に力士の回しが落ちるという内容で放送禁止になった。NHKのカメラマンがアルバイトだったので思わずアップにしてしまったとか、照明係がパートタイマーだったのでスポットライトを当ててしまったというくだりがある。

 日本航空が時給制の契約スチュワーデスを雇おうとしたら、運輸大臣の亀井静香が安全性に問題ありと横やりを入れたことがあった。“亀の一声”騒動である。

 これらが世間のアルバイトに対する典型的な認識だろう。

● フリーターは日本経済を救う

 社員がリストラされる失業時代、意外にもフリーターの需要はなくならない。

 デフレ不況の時代、いま必要なのは福利厚生費が少なく、低賃金で忙しい時期だけ働き、仕事がなくなったらすぐクビにできる人材、すなわちアルバイト、パート、派遣である。この要求に最も反するのが正社員だ。心ある企業はみな社員を減らし、人件費の安いアルバイトやパートを増やそうとする。これが自然の流れである。

 アルバイトは必要な職場に必要な人数を必要な期間だけ配置でき、作業効率がよく、ムダのない労働力である。

 アルバイトは普通の人が思っている以上に深く産業に食い込んでいる。コンビニ、ファミレス、デパート、ガソリンスタンド、普通の人は社員だと思っている店員、実は大半がアルバイトである。自動車、電化製品、食品、ありとあらゆる工業製品を作っているのは大半がアルバイト。情報、通信、運輸、多くの産業でアルバイトが活躍している。みんな知らないだけである。

 テレビのトーク番組でフリーターが日本経済を食いつぶしているとのたまっていたが、カン違いもはなはだしい。これは親と同居するプー太郎と混同しているのである。

 経済を食いつぶす存在は専業主婦だ。大の大人が働かず、税金も払わず、社会保障だけ受ける。これこそ社会の寄生虫であり、撲滅しなければならない。

 今後フリーターは増えると予想される。これは社会の必然である。しかし、政府はフリーターを減らそうと考えている。政治家や官僚の世間知らずぶりは救いようがない。社員だけで社会が成り立つと思っているのか。

 フリーターを減らせば、産業はコストの安い中国や東南アジアに流れてしまう。さらに日本の商品やサービスはコストが高すぎて内外で競争力を失うことになる。

 日本の高額な航空運賃は完全に国際競争力を失っている。契約スチュワーデスを雇うべきだろう。日航の正社員スチュワーデスの平均年収は800万円だぞ。

 銀行も公的資金を投入する前に行員の半分をアルバイトにすべきだ。公務員も3分の1はアルバイトにして国費節約と能率アップを図ろう。

 フリーターは社会のお荷物? とんでもない。今、お荷物は中高年サラリーマンだ。大した仕事もせず高額な給料と退職金と失業手当を受けとる。フリーターの爪のアカでも煎じて飲め。


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