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  ほぼ世捨て人/2003年12月

睡眠時間は減らせるか

  〜 6時間睡眠の収支 〜

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● 時間が欲しい

 子供のころから寝起きがよかった。成人しても早寝早起き、朝は5時ぐらいに起きるという朝型タイプである。睡眠時間は平均7〜7.5時間。生活は概して規則正しく、夜更かしはしない。惰眠をむさぼるのは嫌いで、目覚めたらさっさと起きる。平日も休日も起床時間は変わらない。

 寝つきもいい方だ。カセットを聞きながら寝ると、1曲目が終わらないうちに気を失うので、なかなか2曲目以降を聞くことがない。

 早起きするのは出勤前の冴えた時間に趣味などいろいろやりたいからである。朝起きてあわただしく着替えてメシもそこそこに出勤、というのでは仕事のために起きているようなもの。よくドラマで出勤前にワイシャツにネクタイ姿で朝食をとっている場面があるが、メシがまずくなるのでいやだ。

 睡眠をけずって何かに打ち込むなんてナンセンスだと常々思っている。眠気を我慢しても能率は上がらない。よく寝てこそ活発に活動でき、健康でいられるのである。大学受験のときも、世間では四当五落(4時間睡眠で合格、5時間寝ると不合格)と言われていたが、ボクはきっちり7.5時間寝て志望校に合格している。社会人になって残業が多くても、極力7時間寝るように努めてきた。

 そのボクが今年2月から一大決心、睡眠時間を1時間減らし、6〜6.5時間に変えた。ここ10カ月、朝4時前後に起きている(残業があったときは1時間ずらす)。理由は、どうにもこうにも時間が足りないからである。ここ2、3カ月はさらに短くなり(さらに忙しくなったので)、6時間を切って朝3時台に起きることもある。年のせいだろうって? 失敬だなキミは。

 毎年時間が足りなくて困っているが、今年はさらに忙しくなった。職場で生産調整のための休日がなくなった。残業も休日出勤も増えた。独り暮らしなので家事もやる。週末は買い物、掃除、洗濯などで半日がつぶれる。

 多趣味がわざわいして時間はいくらあっても足りない。ツーリングに出れば丸一日つぶれてしまう。サイトも更新しなくちゃいけない。見ていない番組録画テープがたまり放題。家の中は散らかり放題。2台あるバイクの1台(キャリア付きの方)がパンクしたが修理する暇ナシ、おかげで12月だというのに灯油の買い出しができなくてガタガタふるえている。やるべきこと、やりたいことが山ほどあるのに時間がない。

 時間節約術でだれでも考えるのは眠る時間を減らすことだが、能率や健康の点からそれだけは避けてきた。睡眠時間は手つかずの聖域だった。しかし、もはや起きている時間の効率化だけではすまなくなった。聖域なき構造改革を断行するしかない。

● 短眠法

 手元に講談社現代新書『睡眠の不思議』(井上昌次郎)という本がある。これを指南書として睡眠時間短縮を考えてみる。

図1.睡眠の深さの推移
(現代新書『睡眠の不思議』より)
睡眠周期のグラフ

 人の睡眠の深さは図1のようなパターンを示す。約1.5時間の睡眠周期で深い眠りと浅い眠りが交互に現れる。浅い眠りをレム睡眠(Rapid Eye Movementの略から来た)という。この間に夢を見ることが多い。深い眠りをノンレム睡眠という。この辺りは常識として覚えておこう。

 ノンレム睡眠は浅いものから深いものまで4段階ある。深いノンレム睡眠は初めの睡眠周期にまとめて出現するのが特徴。寝入りっぱなに熟睡するのである。その後、徐々に浅い眠り、惰眠が多くなっていく。  つづき

 睡眠時間を減らすとレム睡眠(惰眠)の割合が減るが、深いノンレム睡眠の総量は変わらないことがわかっている。長く眠ろうが短く眠ろうが、深い眠りの時間は一定。長く眠っても質のよい眠りは一定量以上には期待できないという。

 「身体にどうしても必要なだけのノンレム睡眠をまずとってしまったあとで、あまった時間をレム睡眠にあてて、ひまつぶしをしているのだ、とみなせるわけである。」

 ではレム睡眠は必要ないのだろうか。これについてはよくわかっていない。必要ないという研究者、いやレム睡眠こそ重要だとする研究者、諸説あって定説がない。

 健康な成人の場合、6.5時間の睡眠を確保すれば身体に無理がないという。短眠法を試してみたいという人はこの6.5時間が一つの目安になるだろう。

● 短眠の収支決算

 短眠を実行して10カ月余り。今のところ体調は良好。寝る時間を節約しても精神活動が鈍っては意味がないが、そういう兆候は特にない。昼ごろ眠いことがあるが、これはサーカディアンリズム(活動周期)から来るもので、以前からそうだった。夜はかなり眠くなり、布団に入る前に居眠りしてしまうこともある。もともとよかった寝つきはさらによくなった。布団に入ればまず1分以内に爆睡だ。睡眠中に見る夢は大幅に減った。レム睡眠が減った証拠である。起きるのはさすがに少々辛いことがある。

 朝4時起床、夜10時就寝。自由になる時間が仕事を挟んで2等分されることになった。その結果、朝の時間と夜の時間の効率のちがいが一層はっきりした。朝は気分スッキリ、頭脳明晰、何をやっても効率がよく、活動レベルが高い。一方、帰宅後は仕事疲れで思考レベルが低下、複雑なことはできない。時間節約術では朝の時間は3倍効率がよいなどというが、あながちウソではないと思う。この黄金時間を会社で過ごすなんて実にもったいないことである。

 短眠の収支決算をしてみる。寝る時間を一日1時間短縮。1年で365時間自由になる時間が増えることになる。これは何日分に相当するか。一日は24時間だから
   365÷24≒15日
と計算するのが一般人。ボクの場合、一日は18時間(起きている時間)という認識だから、
   365÷18≒20日
と計算する(これAZMA流)。完全な休日が年間20日増えたのと同じことになる。なかなかの成果である。

 しかし、寝る時間をけずったせいで20日早死にしたのでは意味がない。自然の欲求に逆らって睡眠時間を減らして身体に悪影響はないのかという疑問が残る。これはよくわかっていない。なにしろ動物がなぜ眠るのか解明されていないのだから。

図2.睡眠時間と死亡率の関係
(現代新書『睡眠の不思議』より)
睡眠時間と死亡率のグラフ

 ただ前掲書にショッキングなデータが載っている(図2)。アメリカの研究グループの調査による睡眠時間と死亡率の関係を表すグラフだ。7〜8時間眠る人がもっとも死亡率が低く、これより少なくても多くても死亡率が高くなるという。長く寝すぎてもいけないのである。

 最後に。多くの動物は一日に短く何回にも分けて眠るのが普通である。実はヒトも例外ではないという。われわれは日中ずっと起きて活動し、夜まとめて1回だけ眠ることを当たり前だと思っているが、これは極めて特殊な眠り方。そういう習慣を持つのは、日本を含めた一部の文明国の勤労者に限るというのである。考えさせられる話ではないか。日本で働くボクやアナタは悲しい存在なのだと気づくだろう。

 睡眠時間をけずるなんて、人生まちがっていると思う。が、今のボクの身分では仕方がない。隠退まであと数年の辛抱だ。


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