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  ほぼ世捨て人/2004年1月

福袋シンドローム

  〜 モノの価値を見あやまる人々 〜

ほぼ世捨て人もくじ


● 初売りに群がる人々

 世の中には二種類の人間がいる。一つは福袋を買う人、もう一つは福袋を買わない人。かなりはっきり分かれると思う。ボクを含めたフツーの金銭感覚の持ち主は大抵後者だろう。

 お正月の初売り、最近は元旦からやるらしい。デパートの福袋が飛ぶように売れる。袋の中には総額5万円分の商品が入って、それがなんと一袋1万円。なんて安いんでしょ、と先を争って買う。中身のわからないものに平気でお金を払う。この人たちの金銭感覚はどうなっているのだろう。

 袋の中身は衣料品が多いようだ。高級ネクタイに高級スカート…、といっても好みの色や柄が選べるわけではない。高級な革靴も、高級なセーターもジャンバーもサイズが合わなければ価値はない。ボクなら自分に合わない衣料などタダでも要らない。たとえ色やサイズが合っても、要らないものなら買ってもしょうがない。食べ物なら食べて消費できるから「まったく要らない」ということはないが、衣類ではどうしようもない。

 福袋を買って損をしないとすれば、家族や親類が多くてどんなものでも引き取り手があるとか、質屋に売るとか、オークションで売りさばくといった場合に限られるだろう。

 ボクなら5割引きだろうが8割引きだろうが必要のないものは買わない。少々高くても絶対に欲しいものを必要な分だけ買う。

 定価が5万円だろうが10万円だろうが、自分にとっての価値は別に判断しなければならない。世の中にはモノの価値を値段でしか判断できない人がいる。これを福袋シンドロームと呼ぼう。ブランド志向、高級品志向もそういう人に支えられている。

● 価格と価値の関係

 福袋症候群の仲間に懸賞マニアがいる。「これ、ぜ〜んぶ懸賞で当たったものです」と、部屋一杯の賞品を前に自慢げに語る人。当たった賞品を定価に換算して、総額ウン百万円儲かったといって喜ぶ。モノの価値が判断できないようである。

 1万円のネックレスが当たっても、1万円出して買うつもりがなければ1万円の価値はない。「これが2千円で売ってたら買うわ」。ならばそのネックレスの価値はその人にとって2千円ということになる。

 20万円のイタリア旅行が当たった。イタリアに行きたくて貯金していたというなら20万円の価値もあろう。「イタリアなら5万円でも行かないな」というならイタリア旅行の価値は5万円未満だ。  つづき

 しかも懸賞マニアは応募ハガキに何百万円投じたかは忘れている。懸賞の情報収集やハガキを書くのに要した時間を労働に当てればいくら稼げるかといった計算もしない。

 懸賞マニアにとって応募とは、パチンコと同じで損得抜きの楽しみ、応募自体が趣味なのだろう。だからハガキ代をいくら損しても気にならない。カメラマニアが1枚の傑作を撮るためにフィルム代をいくら損した、などと計算しないのと同じだ。

 ボクは懸賞にしろ宝くじにしろ、すぐ確率の理論に基づいて期待値を推定して「損する」と判断するから、懸賞には応募しないし、宝くじも買わない。ギャンブルも一切やらない。損得抜きの趣味人にはなれない?

 『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京)というお宝発掘番組がある。ゲストが持ち寄った骨董品を専門家が鑑定して市場価値を判断する。ボクには死ぬほど退屈な番組である。モノの価値をお金に換算し、「実はウン十万円の価値があるんです」という。それがどうした、と思うが、一同「ほうっ」とどよめく。福袋シンドロームである。

 モノの値段と価値は釣り合わないのが普通である。店で売っている商品を除けば、モノには定価や適正価格というものはない。どんなくだらないものでも、この世に一つしかなく、「一千万円払ってもほしい」という人がいれば、それは市場価格一千万円になる。別に「ほうっ」と驚くことではない。千円のテレカが10万円で取り引きされても驚くに当たらない。ある人にとっては10万円の価値があるということ。自分にとっていくらの価値があるかは別の話である。アンタは買ってもオイラは買わない。価格とはそういうものだ。

 一千万円の指輪もボクにとってはただの鉄くずだ。長く使いこんだ想い出の品は、他人にとってはゴミ同然でもお金に換算できない価値を持つ。市場価値(価格)は一つでも、個人にとっての価値は見る人の数だけ存在する。

 1万円の福袋が自分にとって1万円の価値があるかどうか、中身を見なければ絶対にわからないはずである。もっとも中身を見ずに買う人がいなければ景気は上向かないのだが。

【福袋】 売れ残ったハンパ物をまとめて在庫処分するために考案された不透明のゴミ袋。<AZMAの辞典>


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