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  ほぼ世捨て人/2004年3月

働きバチの生態

  〜 日本の労働時間は世界最長 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 日本人に生まれて一番不幸だと思うのは、一日10時間も働かねばならないことである。

 長時間労働はボクがビジネス社会から足を洗った理由の一つである。当時のコンピュータ業界は人出不足で残業が多く、月50時間は当たり前、100時間を越えるバカモノもいた。仕事がなくてもだらだら残業する者が少なくなかった。

 ボクは短時間で仕事を済ませてさっさと帰りたかったが、他人の仕事も手伝わなきゃならないのでそうもいかなかった。人生もったいないなー。こんなことするために生まれてきたんじゃないのに。これじゃ刑務所暮らしの方がよほどマシじゃないかと思った。

 大半の社員は仕事以外にさしたる趣味がないから、時間なんか惜しくない。休日があってもやることがない。停年後は廃人になる人たちである。あーいやだ。こんな連中と停年まで同じ人生を歩みたくない。そう思って辞めた。

 長時間労働、仕事中毒、過労死…。異常な世界なのだが、大半の人はその自覚すらない。僕は正常な人間なので、異常な日本人にはついていけないのである。

● 国際比較してみると

 日本の労働時間の長さは世界的に見て異常に突出している。80年代は先進国中唯一、年間二千時間を越えていた。近年のILOの統計では、労働時間最長がアメリカで、日本は2位に転落して話題になった。

年間労働時間比較(1998年)、ILO統計
ドイツ フランス イギリス アメリカ 日本
1,503 1,604 1,731 1,957 1,842

 不況まっ只中の日本が、好景気で労働時間の伸びたアメリカと比較して労働時間が少ないといって喜ぶのもどうかと思う。アメリカが欧米の中で圧倒的に働きバチなのは確か。ただ、日本人以上に働いているとは考えられない。

 調べてみると、この労働時間は各国の自己申告であり、算定基準が国ごとにバラバラなので同列の比較はできないことがわかった。労働時間の定義もちがうし、有給休暇の扱いもちがう(日本は労働時間から除いているが、アメリカは含めているらしい)。職業や男女差の扱いも不明。日本は統計に出ないサービス残業が多い。実態はアメリカより日本の方が労働時間が長いと見てまちがいないだろう。

 法定労働時間は、日本が週40時間に対し、ヨーロッパは平均35時間。有給休暇は、日・米が22日、イギリス・フランスは35日、ドイツは42日。しかも日本の有休消化率はわずか50%程度。欧米はもちろん100%である。  つづき

 日本の“長期休暇”の実態はとても情けない。夏休みはホワイトカラーで一週間少々。会社によっては土曜出勤の振替や会社の創立記念日や有休を寄せ集めただけというケースも。ブルーカラーでも10日間程度の小型連休を“大型連休”と呼んで喜んでいる。長期休暇と呼ぶならドイツ人のように一ヵ月ぐらいはなくちゃ。

 「欧米では夫も家事を手伝うのに、うちの夫は手伝ってくれない」と嘆く奥さん。それは無理というもの。欧米とは労働時間がちがうのだから。

● 骨抜きのワークシェアリング

 職場の機械化、OA化が進めば人手が余り、失業者が増える。ヨーロッパでは早くからワークシェアリングが市民権を得た。一人当たりの労働時間を減らしてみんなが仕事にありつこうという発想である。

 日本も不況の時代、失業対策としてワークシェアリングが注目を集めた。これで日本も労働時間が減って真に豊かな先進国の仲間入りだ。と思ったボクは甘かった。リストラは進行したが、一人当たりの仕事量が増えて、かえって忙しくなった人も多い。失業率が増加する一方で、残業や過労死も増加するという二極化が起こっている。これはワークシェアリングに逆行するものである。みんなが少しずつ働くという発想は日本人にはなじまなかった。時間のある限り働くのが日本人なのだ。

 政府が音頭を取って、企業に対して残業禁止や週休三日制導入を指導すれば、百万人分以上の雇用が確保できるのだが、無能な厚生労働省は何もしないのである。

 ただ、国にばかり責任を負わすわけにはいかない。働く個人の自覚のなさに最大の責任がある。有休の消化率がわずか50%というのは国の責任ではない。せっかく企業が休暇を増やしても、社員の反応は冷たい。「収入が増えないのに休暇ばかり増えても遊べないじゃないか」と不満を言うバカな労働者がいるのが実状。とても付き合いきれない。

 国民の豊かさを計る基準は何か。生活費の多寡ではない。GDPでもない。貿易収支でもない。ボクは労働時間の短さを豊かさの一つの基準と考えたい。労働時間の長い日本は先進国中最も貧しい国の一つと言える。

 情けない話だが、ボクも現在、年間二千時間ほど働いている。世捨て人としての特殊事情である。人より10年早く引退するつもりだからだ。あと数年で仕事中毒患者たちともおさらばだ。


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