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  ほぼ世捨て人/2004年4月

計算できる犬

  〜 犬の芸のトリックを検証する 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 世の中、愚かな人はたくさんいるが、「うちの犬は計算ができます」と主張する飼い主は横綱クラスだろう。

 よくテレビで犬の“計算芸”を見かけるが、もちろんすべてインチキである。「2足す3は?」と犬に尋ねて、エサを見せて吠えさせ、5回吠えたところでエサをやって遮(さえぎ)れば5と答えたように見える、という単純極まりないトリック。あるいはこっそり指示を出して思い通りの番号札を選ばせるという手法もある。

 犬が計算できないのは知能が低いからというより、計算する必要がないから。必要のない能力は身につかない。数字も演算記号も人間が作った約束事だから、犬が自然に計算を覚えることはない。

 ボクは犬の知能よりむしろ飼い主の知能に興味が湧く。愛犬が足し算できると言ってノコノコとテレビに出て自慢するのは、自身の尊厳を著しく傷つける行為であり、人格が崩壊していると言わざるを得ない。「私、霊が見えるんです」と自慢する人と同レベルの幼稚さである。心ある人から最大限の軽蔑を受けていることがわからないのだろうか。

● つい先日も…

 TBS『どうぶつ奇想天外!』(日曜夜8時)を見ていたら、計算できるという犬が登場。またかとウンザリ。しかし、さすがはゴールデンタイムの金のかかった動物番組。ただの子供だましではなかった。もっと手が込んでいたのである。

 飼い主は50代ぐらいのおばさん。場所は自宅の一室。犬は小型の座敷犬。おばさんが犬と対峙して正座する。「2+3=」などと書かれたボードを犬に見せてから、おばさんは畳の上に完全にうずくまり、両腕に顔をつけた恰好になる。犬に合図が送れない姿勢である。すぐに犬が吠え出す。答えの回数(5回)だけ吠えた後も、おばさんはしばらくその姿勢を維持して動かない。犬がそれ以上吠えないことを確認させるという念の入れようである。

 パネラー一同、これにはびっくり。畳の上にひれ伏して微動だにしない状態で、手や目で犬に合図を送るのは不可能と思われる。答えに応じた回数以上は決して吠えないのもスゴイ。

 番組が下した結論。「この犬は計算できるわけではないが、飼い主の何らかの雰囲気を察知して吠えているのだろう」。  つづき

 “何らかの雰囲気を察知して”とはとても曖昧な説明だ。実験や検証を重視する番組としてはお粗末な結論である。

● で、ボクの結論は…

 もちろんこれはトリックである。

 あの姿勢で回りのスタッフに気づかれずに、犬にだけ合図を送る方法があるか。

 ある。一番可能性が高いのは犬笛を使う方法だ。人間の耳は高い音が16KHzまでしか聞こえないが、犬は30KHz以上の高音が聞こえる。犬笛の超音波を使えば、人に気づかれずに吠えるタイミングを合図することができる(あるいは犬笛以外の超音波を出す小道具を使った可能性もあるが、犬笛が一番手っ取り早い)。おばさんが完全に顔を覆ってうずくまっていた点に注意したい。かくし持った笛をこっそり吹くにはもっとも都合のいい姿勢である。

 動物を専門に扱う番組のスタッフなら犬笛の可能性に思い至らないはずはない。また、検証するのは容易である。音声担当が録音レベルを監視していれば、メーターが振れるのでわかるはず。検証する気があればの話だが。(*)

(*)高い周波数の音声は電波に乗せる(周波数変調をかける)際に脱落するので、視聴者がオンエアされた番組から犬笛の音をチェックすることはできない。

 飼い主は人を担ぐという明確な意図を持って犬を訓練し、この“芸”を身につけさせたはず。とすれば、犬が「何らかの雰囲気を察知した」とする番組の結論は不正確でいただけない。カラクリを検証して、はっきり「インチキです」と言うべきだろう。でもこの番組はまだ良心的な方だ。「この犬は計算ができる」と結論しなかっただけマシかもしれない。ホームページでシロウトを個人攻撃するのは本意ではないが、おばさんが自分の意志でテレビに出た以上、批判を受ける理由はあるだろう。

 心霊現象、超能力、UFO、占い…、みなマスコミが加担したヤラセである。科学的に検証するという番組はたくさんあるが、99%番組がグルなので、制作側が意図した結論しか出てこない。スプーン曲げなどもテレビにとっては大切なネタ。簡単に種明かしするわけにはいかないのである。

 テレビ番組のレベルはこれでいいのだろうか。もっとも「視聴者のレベルに合わせた番組作りをしているだけです」と言われれば返す言葉もないが。


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