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  ほぼ世捨て人/2004年8月

肩書きがすべてだ

  〜 肩書きでここまでだませる 〜

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● 権威付けとしての効用

 ブランドというものがある。バッグ、時計、衣料、車、カメラ、食料品・・・、多くの消費財やサービスにブランドが存在する。

 ならば人間にブランドがないはずはない。人間にも当然ブランドがある。昔なら家柄がブランドだったが、華族制の崩壊で家柄という言葉は死語になりつつある。しかし、「肩書き」というブランドは厳然として社会を牛耳っている。

 サラリーマンの場合、肩書きといえば役職のこと。この肩書き欲しさに何十年も粉骨砕身勤め上げるわけだ。

 ただ悲しいかな、会社の役職は在職中しか効力を持たない。部長として幅を効かせた人も、定年退職すれば部下はみな離れていく。人は人間性にひれ伏すのではなく、肩書きや権威にひれ伏す。肩書きを失えばタダの人、という好例である。

 学歴も肩書きの一つだ。実力主義の人事を標榜する会社でも、入社試験は学歴がものを言う。初対面の人の能力を判断するのに学歴か職歴ぐらいしか基準がないのだから仕方がない。肩書きとは初対面で正体が知れない人ほどものを言う。

 男は特に肩書きを欲しがる動物だが、女は一般に肩書きを求めない。女は肩書きの付いた男を求める。結婚詐欺で肩書きにだまされるのは女性の方である。

 本を選ぶときも著者の肩書きが大切。ノンフィクション、ハウツーもの、学術書は特にその傾向がある。経済の本を選ぶとき、プロフィールにナントカ大学経済学部教授とあれば安心だが、「木材加工業従事」と書いてあったらどうか。いくら立派なことが書いてあっても信用できなくなる。たとえ著者が専門家ハダシの経済通であっても、そんな本を買う気にはならないだろう。

 専門家、評論家、大学教授の言うことは信用されやすい。ダイエットの広告にはナントカ医学博士、カントカクリニック院長らの推薦の言葉が書いてある。これをお墨付きと呼ぶ。

 単なる趣味や商売を勝手に学問にしてしまう手がある。一種の権威付けである。たとえば街を眺めながらぶらぶら散歩する遊びを「路上観察学」と呼べば、大層な学問に聞こえる。単なる占いを占星術、手相学、風水学…と呼ぶのも同様。血液型人間学なんてのも同じ手合いである。

 日本で最も肩書きを有効に使っている人は水戸黄門だろう。
「さきの副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ。ズが高い!」  つづき

 肩書きがあればこそ悪代官も言うことを聞くというもの。いかに黄門様でも肩書き抜きでは事件を解決できないのである。

 なぜ社会で肩書きがものを言うかというと、人の能力やモノの真価を判断できない人が多いからだ。自分の目で判断できないから肩書きで判断する。大衆がブランドや肩書きに弱いのは判断力の低さを表している。

● サイト運営者だって…

 多くの人にとって肩書きはとても大切。少なくとも裸の大将・山下清のような人生でない限り、肩書きはあった方がよい。

 個人ホームページでも作者の肩書きが大切。無職だからと「プー太郎」なんて書いたら誰も読んでくれない。無料サイトを公開しているのだから「ボランティア活動家」ぐらいのことを書かなくちゃ。

 思えばボクも肩書きとは無縁の人生である。『世捨て人の庵』のプロフィールにはこう書いてきた。

 職業:職業フリーター
 自称:電脳フリーライター、自由人。
 他称:浮浪者。

 余談だが、「職業フリーター」ってタダのフリーターとどう違うのかと聞かれたことがある。大した違いはない。ボクの造語である。世の中には将来正社員になるまでのつなぎとして、あるいは夢や目標(たとえば俳優になるとか)を叶えるまでの生活手段としてアルバイトをしている人が多い。そういう人と区別する意味で、アルバイトを本業と認識して(好む、好まないは別として)やっている人を「職業フリーター」と勝手に名づけた。

 いずれにしろ、フリーターという言葉は今やすっかり手垢にまみれてしまった。誰もフリーターの書いたサイトなど読みたいとは思わない。肩書きとしては失格である。

 その反省を踏まえて新しい肩書きを考えた。「遁世(とんせい)研究家」なんてどうだろう。ちょっと怪しくていいじゃないか。というわけで早速書き直しておいた。

 遁世研究家ってなにか? ボクにもよくわからん。“世捨て人”の漢語表現といったところ。よくわからないところがいいのだ。西行か何かの研究者とまちがえてくれる可能性もある。

 そんじょそこらのフリーターじゃない。遁世研究歴25年だぞ。ズが高い! そういうハッタリである。

 実にいい加減だって? その通り。いい加減な世の中にはいい加減に対処するのが一番だ。

【肩書】:(名刺などで、氏名の右上に記すところから)地位・身分・称号などをいう。<広辞苑>


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