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  ほぼ世捨て人/2004年12月

天才のいない社会

  〜 日本人は頭のいいバカばかり 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 昔読んだギネスブックによると、世界で一番IQの高い国民は日本人だという。アメリカ人の平均IQを100とすると、日本人は110だそうな。

 確かに日本にはバカは少ないが、天才もいない。このことは重要である。才能を生かせない社会だという証左である。

 ソフトバンク社長の孫正義は日本の数少ない天才の一人だろう。日本では地味な扱いだが、フォーブス誌の「世界の金持ちベストテン」に入った世界的著名人だ。

 氏が中学のとき、池を一周する校内マラソンがあり、ほかの生徒は岸ぎりぎりを走ったが、正義少年は岸の後退した部分同士を直線的に走って10位に入ったという。人と発想がちがうのである。

 高校1年のときアメリカに研修旅行に行ったら、向こうの自由で伸び伸びした気風にすっかり魅了され、日本の高校を中退。渡米して向こうの高校に入り、2週間でそこを卒業した(!)。検定試験に受かれば飛び級が許されるからだ。

 アメリカの大学に在学中、1年間毎日勉強の合間に5分間だけ使ってアイデアを絞り、多国語翻訳機なるものを思いつく。NASAの仕事を請け負っている研究所があったので、そこの技術者にかけ合い、「実用化できたら報酬を払うから」と言ってタダで試作機を作ってもらった。このあたりの環境が日本とは全然ちがう。

 この商品化で1億円の契約金を得て、会社を設立。学業の片手間に会社を経営し、1年半で2億円近く儲けたという。

 氏の発想は日本社会の枠を越えている。日本にいたらこれほど成功しなかったかもしれない。

 日本の社会はいくら才能があっても若ければダメ。規制と慣習にがんじがらめに縛られた社会で、天才の存在を許さない。

 十で神童、十五で才子、二十歳すぎればタダのサラリーマンだ。

 日本とアメリカ、まず教育からちがう。アメリカでは飛び級が可能で、16歳でも能力があれば大学に進むことができる。かなうわけがない。

 日本で能力別クラスを作ろうといえば、すぐに差別だ、切り捨てだと反対が起こる。人に秀でることより人と同じであることが尊ばれる社会なのだ。  つづき

 アメリカ人は左利きが珍しくないが、日本人には少ない。子供のうちに親が直してしまうからだ(ボクも直された)。どうでもいいことのようだが、社会の体質の差をよく表している。

 日本の教育は試験のための詰め込みと丸暗記が主流。徹底した平等教育と画一的なカリキュラムで、落ちこぼれは少ないが、創造力や独創性や主体性のない人間を大量生産している。「頭のいいバカ」である。知識の丸暗記から天才は出てこない。

 アメリカの授業は知識の詰め込みより思考を重視する。自由で独創的な教育だからバカも多いが、天才も出てくる。

 コンピュータ時代、必要な知識や情報はパソコンに覚えさせればいいので、丸暗記はあまり意味がない。アメリカ人は九九ができないと揶揄(やゆ)する人がいるが、そんなことは電卓でできるのだ。もっと創造的なことに頭脳を使うべきだ。

 日本人の頭のよさは主に記憶容量と処理速度にある。が、そういう能力ならパソコンにはかなわないのである。

 優れた記憶力を使って円周率を何万桁も暗記するバカがいる。いや、バカなんて言っちゃいけない。数字の羅列を丸暗記するという無意味な行為、これぞ趣味人の鏡というべきか。ただ利口ではないナと思う。

 コンピュータ業界にいた頃、頭のいいエリートサラリーマンが少なからずいた。決められた仕事をこなすには優れた才能を発揮するが、発想や生き方は極めて平凡で画一的だった。「頭のいいバカ」である。

 一人だけ天才に会ったことがある。出向先の銀行のシステムエンジニアで、バツグンに頭がキレる男だった。話していると、ボクが10秒かかって考えることを1秒で考えているのがわかった。ああ、これが天才かと思った。しかし、何が好きなのかサラリーマンをやっている。銀行員としては目一杯出世するだろうが、せっかくの才能はすべて組織のために使われる。その才能を自分の人生のために使うという発想はないのである。所詮は飼いならされた天才、「頭のいいバカ」なのである。

 孫正義のような天才は、評価が高いのは海外、日本では変人扱いである。アメリカの社会はこういう鬼才を受け入れるだけの度量がある。

 IT革命時代、日本の情報産業はアメリカに大きく水をあけられている。記憶力ではなく発想力がものをいう時代。同じ発想しかできない人間が何人いてもしょうがない。「頭のいいバカ」は「頭の悪いアイデアマン」には勝てないのだ。


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