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  ほぼ世捨て人/2004年12月

それじゃ世の中成り立たぬ

  〜 一見正しく見えるヘンな主張 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 一見もっともらしいけど非現実的で、実行不可能な主張というのがある。

 「人命は地球より重い」というのはその最たるもの。それを実現したら地球はつぶれてしまう。国が、社会が人命を第一に尊重するというのは一見正しいようだが、文字通り実行したら世の中は成り立たない。

 人命を軽んじるからこそ車を走らせることができるし、飛行機を飛ばすこともできる。アナタがクルマを運転できるのは「一人ぐらい轢き殺しても、ま、しょうがないか」と考えるからだ。

 同じような矛盾をはらんだ主張は少なくない。

 『13歳のハローワーク』(村上龍)なる本がベストセラーになった。若者向けの職業ガイドだ。

「人生は一度しかない。好きで好きでしょうがないことを仕事にしたほうがいいと思いませんか?」 (Amazonの内容紹介)

 極めてもっともである。しかし、みんなが自分の好きな仕事に就いたら世の中は成り立たない。

 社会ではだれかが便所の汲み取りをやらなければならない。ボクのような低賃金に甘んじるフリーターも必要。3Kの仕事を引き受ける労働者も必要だ。

 自分の好きな仕事に就いている人はむしろ少数派。世界の大半の人は好きでもない仕事をいやいやながらやっている。自分の仕事を好きでやっていると認識するのは日本人だけの特異体質と言える。

 景気回復、経済成長、人口増加は政府がめざすテーマであり、一見良いことのようだが、そういう右肩上がりの繁栄が続けば日本の自然環境はもたない。経済成長と自然保護は明らかに矛盾した目標だということを正面から捉えるべきだ。公共事業や開発を進め、ダムを建設する一方で、自然保護だ、二酸化炭素削減だという。そんな矛盾したことを平気で言う政府はまったくポリシーがないというしかない。

 政府はあの手この手で国民のマイホーム取得を推し進めるが、みんなの家が建つだけの土地はない。全世帯がマイホームに住むことは物理的に不可能であり、めざしてもしょうがないことである。  つづき

 車社会、国民皆免許時代。クルマは便利な乗り物だというが、それは一部の人しか持てないからだ。みんなが車を乗り回したら大渋滞と大気汚染と土地不足で社会は成り立たない。

 みんなが金持ちになることは不可能である。物価が上昇するからだ。だれかが貧乏だからこそ金持ちが金持ちたりうる。昔、所得倍増計画をぶち上げた総理がいたが、みんなの所得が倍になるのも半分になるのも同じことである。

 日本の詰め込み教育は大きな幻想の上に成り立っている。みんなが勉強していい大学を出れば、みんなが出世して幸せになれるという幻想だ。全員が立身出世することはあり得ない。教育レベルを上げようが下げようが、だれかが出世し、だれかが出世しないことに変わりはないのだから。

 むしろ出世至上主義を捨て、無意味な競争はやめましょう、という方向に向かうべきだ。ボクは入学資格をくじ引きで決めるべきだと考える。

 戦争放棄、核兵器反対というのも、偽善的で非現実的な主張の代表である。核兵器を廃絶せよ、平和憲法を守れ、自衛隊は違憲だ、軍備を放棄せよ、有事立法反対、米軍は出て行け、と主張する人たちがいる。

 いやー結構、結構。で、日本はだれが守るの? と考えれば、まったく現実性のない主張であることがわかる。

 平和国家は軍隊あればこそ成り立つもの。日本の平和はアメリカの核と軍事力で守られているのが現実。米軍を追い出したとして、北朝鮮から核弾頭ミサイルが飛んできたらだれが撃ち落とすのか。そういう現実をまったく見ようとしないのがエセ平和主義者。こんな主張をいくら繰り返しても意味がない。

 世の中、きれいごとだけじゃすまない。理想は理想として、現実も見ないといけない。世の中が成り立たないような主張をしてはいけない、とボク自身も注意している。


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