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  ほぼ世捨て人/2005年8月

日本人になれなくて

  〜 アイデンティティは自由人 〜

ほぼ世捨て人もくじ


 「あなたのアイデンティティは何ですか。」

という質問にどう答えるか。

 まず質問の意味がはっきりしないのだが、アイデンティティとは、自分は何者なのか、自分が自分である証のこと。

 一般には「日本人です」と答えるのが最もよく聞かれる答えのようだ。

 「自分が自分である証」に日本を持ち出すというのはボクにはできない発想だ。ボクも血統は日本民族であり、日本に生まれ育ち、日本を一歩も出たことがないが、そのことは自分のアイデンティティとはほとんど関係がない。

 関係ないどころか、青年期からこの30年間、日本の常識や慣習と闘ってきたといってもいいくらいだ。

 ボクの中に日本人的なものはほとんどない。日本に対する愛情や思い入れもない。そのことは『世捨て人の庵』を隅々まで読んだ人ならすぐに気づくだろう。庵主・AZMAを外国人と思い込む人がいるかもしれない。プロフィールにあえて「日本人」と書いたのはそのためだ。

 日本や日本人を客観的にさめた目でしか見たことがない。ボクが「日本人は云々」と書いたら、ボク自身はその中に含まれないことが暗黙の前提となっている。

 テレビでよく「日本人ならやっぱり○○でしょ」と言う人がいる。○○の部分には演歌、銭湯、赤提灯…といったものが入る。この場合の日本人には本人も含まれることが当然の前提となっている。こういう人のアイデンティティはたぶん「日本人」なのだろう。ボクの嫌いなタイプである。

 オリンピック、大リーグ、サッカーワールドカップ…、日本人選手の活躍に熱狂する大衆。頼まれもしないのにみな日本を応援する。これを見ると、文部科学省のいう愛国心教育など必要ないんじゃないかと思う。  つづき

 なぜ日本人選手の勝敗にあんなに一喜一憂できるのかわからない。日本という国を主観的にしか見ていないということだろう。

 日本人の活躍に熱くなったり日本の文化・習慣に盲従する人を見ると、たしかに「日本が彼らを作った」としか言いようがない。

 たとえば日本人としての誇りを持つなんて相当な偏見がなければできないことだろう。日本人は優れた民族なんだという偏見だ。

 日本人には優秀な人もいるが、バカもいる。ドイツ人もインド人もみな同じ。優劣は個人の問題であって国籍や人種は関係ない、とボクなど考えてしまう。これじゃだめだ。

 日本に生まれてよかったか? 世界にはひどい国がたくさんあるから、そういう意味では日本に生まれてよかったかなと思う。

 日本が好きという意味ではない。もっと正確に答えるなら、「アメリカによって民主化された国」に生まれてよかったということ。民主化される前の日本はゼッタイに生まれたくない国だ。

 子供のうちはだれでも自由人。年齢とともに社会的マインドコントロールを受けてどんどん日本人になっていく。ボクは日本人になり損ねた稀有(けう)な中年なのか。

 トルコに生まれたらトルコ人になり、ブラジルに生まれたらブラジル人になる。韓国に生まれたら韓国を愛し、日本に生まれたら日本を愛するとするなら、人間とはなんと了見の狭いつまらない動物なのだろうか。

 以前、電車の中で見た日大国際関係学部の広告、キャッチコピーにこうあった。

   「国籍は地球です。」

 こういう感覚が好きだ。


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